お見合い相手は、アノ声を知る人
「な、何か?」


思わず緊張してしまい、オフィスに居るような感じで聞いてしまった。


「立ってないで座ればと言おうかと思ったんだけど」


座卓の上に置いてある銘菓でも食べないかと誘われる。
彼の近くに行くのが何となく気遅れて、ううん…と断ってしまった。


「折角だけど眺めがいいから海が見たいの。
雨に煙る水平線なんて、普段は見たくても見れないから」


鼓動を感じながら目線を海に向け直した。
海上を渡る雨雲の様子を確かめ、雨脚が駆けるのを見定めた。


「…そうか」


寂しそうに呟く彼のことを背中に感じながら、さっきの墓所では彼に抱きしめられても平気だったのに…と思った。


(やっぱりあの場所では、何か違う力が働いてたのかも…)


先祖の霊が見守ってる中で、現世に生きてるのは彼と私だけの様な感じがした。
実際は蝉時雨が響いてて、藪蚊の羽音も聞こえてた筈なのに。



「…あ、この部屋露天風呂付きらしいぞ」


パンフレットを眺めてた彼が急に言い出し、え?と後ろを振り返った。


「浴室から外に出た場所にあるって」


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