お見合い相手は、アノ声を知る人
昨夜見た夢の中では綺麗なススキ野原が広がってた。

月光に照らされた野原の中に、和服姿の女性が赤ん坊をあやし、子守唄を歌いながら歩いてた。


目覚めた時、目尻から涙が溢れてて、泣きながら夢を見てたんだと知った。
でも、不思議とよく眠れて、彼が隣に居たからかな…と感謝した。


「それじゃ其処に行ってみるか。その後は世界遺産でも巡って帰ろう」


他には何もない田舎だからな、と話す横顔を見つめ、うん…と頷いて視線を逸らした。


彼が何もしてこないのが少し歯痒く感じた。
抱きしめたり、頬にキスだけなんてつまらない…と思ってる自分もどうかしてると思うが。


月野という地区はホテルから山沿いの道を十五分ほど走った場所にあった。
青々とした稲穂が並ぶ田園地域で、その傍らには清流が流れてる。

ガイドマップによると、清流の奥には滝があるらしい。

「三日月の滝」という名前らしく、そこまでは山の中を歩いていかないダメだと書いてあり、今日はパンプスだからムリね…と諦めた。



「また行こう」


そう言う彼を振り返り、また連れてきてくれる気でいるのか…と驚いた。

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