お見合い相手は、アノ声を知る人
「美味しい…」


パプリカも甘くてシャキシャキとしてる。
考えてみれば高級レストランで食事なんて初めてかもしれない。

いろんな野菜の味が確かめたくなって、次から次へと口の中に頬張った。
向かい側に人がいることも構わず、気づけばお皿の中身は空っぽ。



「美味かったな」


最後の一口を噛んでるところへ声をかけられ、慌ててそうだった…と飲み込む。


「う…うん」


すぐには声が出せず、頷くように返事をしただけ。
彼はフッと微笑み、残ったグラスワインを煽った。


「…ねぇ、私お祖父ちゃんに聞いたんだけど、貴方って婿養子に入る意思があるんだって?」


物好きな…という意味を込めながら言ったつもり。だけど、相手は全然平気そうで。


「ああ、別にそれでもいいと思ってる。ジジイの会社を継ぐのは兄貴だし、婿養子に入れば楽できそうだしな」


「だったら別にウチでもなくてもいいよね。誰か他の人とお見合いして結婚すればいいんだから」


ウチだと楽できるかどうか分からない…という意味も含めて言ったつもり。だけど、何故かジロッと睨まれた。


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