お見合い相手は、アノ声を知る人
「あのね、さすがにそう何度も引っ掛かったりしないわよ」


だから離して…と手を引っ込めようとするけど、ガッチリ握ってて離さない。

やな感じするんですけど…と思いつつも、普通はこれが週末の男女のあるべき姿なのかもな…とも思った。



……あの人とは、こんな風に外で堂々と会えなかった。

どこで誰と会うか分からなかったから、いつも自分の部屋でしか会えなかった。


たった一度だけしたデートも、誰も来そうもない山の中をドライブしただけ。どこにも立ち寄らず、真っ直ぐ自分の部屋に帰った。

そして、お決まりのように体を求め合って繋ぎ合ったーーー。




「……おい」


頭の上から声が聞こえ、ビクッと見上げる。
整った顔立ちの彼は怪訝そうに見下ろしてて、その瞳を見つめながら「何?」と聞いた。


「いいか、入るぞ」


どうもドアを開けようとしてたらしい。
私がぼうっと突っ立ってるもんだから、ぶつけてはいけないと気遣ってくれたようだ。



「…うん。いいよ」


< 80 / 213 >

この作品をシェア

pagetop