恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
「おはようございます。金曜日はお疲れさまでした」
「ん、おはよ」
月曜日に出社すると、先輩はいつもとなんら変わらない様子だった。
私の会議の準備に連日付き合ってくれていたせいもあり、こうして早出をして、自分の仕事も遅れないように進めている。
カタカタと淀みなく、迷いのないタイピングの音が続いている。
ここで私の方は金曜日のことをうだうだと引きずっているということがバレてしまっては駄目だ。
プライベートを仕事に持ち込まれることにウンザリしてるって言ってた先輩に、私も同じような思いをさせたら、距離を置かれてしまうに違いない。
後輩としての信頼を裏切りたくない。
また先輩とあんな風に飲みに行きたいから、ここは私もいつもと変わらない態度で接しなければ。
「桐谷さん、商品の企画スケジュールなんですけど、休みのうちに作ってきました。課長に出す前に見てもらってもいいですか?」
「おう、いいよ。見せて」
「これです。これから製造部と調整を入れて、最終デザインを検討します。そのあと営業部との打ち合わせをだいたいこれくらいには持っていけたらと思っているんですが」
「ちょっとのんびりしすぎだな。デザインに時間をかけていいけど営業にはそれを売ってもらうだけなんだから、決まったらすぐ打ち合わせに入って早々に売ってもらえよ」
「はい。調整します」
「それ直したら他はオッケーだから、課長に出しといて」
「はい!」
煩悩を消し去るように仕事にのめり込んでいった。
でもそのたびに、どうして先輩は私を引き抜いたんだろうと考えている。
先輩には私の仕事ぶりがどう見えていたんだろうか。
そもそも、ずっと店舗勤務だった私のことを一体どこで見てくれていたんだろうか。
何より、私にはそんな特別な何かがあっただろうか。