恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
俺さ、と言いかけた先輩は、またそれを途中でやめた。
くっついたり離れたりを繰り返していた私たちの椅子も、ついにゆっくりと離れていく。
先輩がもとのデスクの位置に戻って、またパソコンを起こした。
「やっぱなんでもねーわ。資料作り終わったなら、もう帰れるだろ?気をつけて帰れよ」
「はい……」
さっき何か言いかけたということは、本当は何かあったということだ。
そして先輩はそれを私に伝えないことを選んだ。
それは私が部下として不甲斐ないからなのだろうか。
それとも私ではどうしようもできないことなのか。
パソコンも落として鞄も肩にかけて、もうオフィスを出るというときに、私はもう一度先輩を振り返った。
「先輩!」
先輩のことがどうしても諦めきれなかった。
「どうした」
「あの!私はずっと先輩の隣にいますからね。何があったのかは分からないですけど、力になれることがあれば何でも言ってください。私では心もとないかもしれませんが、頑張ることだけは得意ですから!」
「……おう、サンキュ」
先輩の表情はさっきの苦しそうな笑顔のまま、私を見送るだけだった。