恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※


異動の事実を知っていたのは部長と先輩だけだったようで、課長も「うっそー」と驚きの声を上げている。

チームの皆も、先輩の異動に悲鳴を上げはじめた。

悲鳴がこだまするままに、部長は桐谷さんを前に立たせ、異動の詳細を話し始めた。

「まあご存知のとおり、桐谷くんは店舗二年、営業部二年、商品開発部ではインテリア部門二年、そして生活雑貨部門で二年半。各所で実績を積んで当部門でも多大なる貢献をしてくれました。それが認められてこの度、かねてよりご自身でも希望していた『マーケティング戦略部』に配属が決まりました。おめでとう!」

悲鳴は拍手へと変わっていった。

マーケティング戦略部と言えば、デキると噂の社員ばかりが集められる精鋭部署。

しかし私は、流されるまま渇いた手を鳴らしていただけで、まだ何も理解はできていなかった。

先輩が異動になる。まるで嘘みたいな話だ。

それから先輩は一言挨拶を求められていて、今までのチームへの感謝だとかこれからの抱負だとかを話していたのだと思うけれど、私はずっと、それが遠く遠く聞こえていた。

先輩は、自分が異動になることを知っていた。

私の指導をやめたのも、今月続いていた残業も、全部異動のためだったのだろう。

それならどうして……。

先輩どうして、ずっと私に黙ってたんですか?


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