恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
会議室は少し狭い場所だった。
四人がけの小さなワークスペースで、先輩はテーブルに寄りかかった。
片手に缶コーヒーを二本持っており、一本を私に差し出した。
「やる」
「ありがとうございます。……あとあの、先輩。ご栄転おめでとうございます」
唐突すぎたからか、先輩はコーヒーを手渡したまま離すことなく固まり、次の瞬間には「ははっ」と笑った。
「ありがとう。水野」
「本当にすごいですよね、マーケティング戦略部なんて。先輩、やっぱりエリートコースなんですね」
「あのな、言っとくけどそういう水野もわりとエリートコースなんだぜ?」
先輩がコーヒーに口をつけたので、私も開けて飲み出した。
「赴任はいつからなんですか?」
「一週間後」
「早いんですね」
「まあな。でもフロアが違うだけだから引っ越しする必要ないし、本部間の異動は楽なもんだな」
先輩は流暢に話しながらも何か言いたげだったので、私は話をやめて、先輩の言葉を待った。
しばらくすると、先輩はじっと私を見つめてきた。
「……黙っててごめんな、水野」
「先輩……」
「言おうと思ってたんだけど、お前色々と頑張ってたし、水をさしたくなかったんだよ」