a bedside short story
13th.Aug. 浴衣
浴衣の写真があった。
厳密に言えば、浴衣ではないみたいだけれど。
浴衣に酷似した、どこかの民族衣装なんだろう。

そういえば、最後に浴衣を着たのっていつだっけ……?


********************


「夏祭りには、浴衣着て来いよ?」

近所で1番大きな神社の夏祭りに行こうと誘ってきたのは、それこそほくろの位置まで知ってる二軒先に住む幼なじみ(♂)。
少女マンガ的には、それこそ『キュン』な立ち位置になりそうな役所だが、まったくそんな兆しすらない私達。
その幼なじみがなんで今更浴衣を指示してきたのかその真意は判らないけれど、タンスの肥やしになっていたのは事実だし、せっかくだから誘いに乗ることにした。

押し入れから、浴衣一式を取り出す。
肌着に、肌襦袢に、腰ひもに……

せっかくだから帯紐とか帯留めも使おうかな。

始めは面倒だと思いながらも、小物を並べていると徐々にテンションが上がってくる。これ、女の性。

髪型どうしようかな。
着てみないとイメージ着かないなあ。

学生時代に一通り覚えた記憶を手繰りながら、とりあえず形にして、髪のセットに移る。

まあ、差し当たり練習だから簡単に……

そう思いながらも、何となく手が抜けなくて、結局ケープまで振ってしまう。これも女の性。

玄関の姿見で全身を調整してから、母親のいる台所へ。

「ねえ、母さん。どうかな?」

振り返った母さんが、瞠目して上から下まで目を凝らす。

「どうしたの? 急に浴衣なんか着ちゃって」
「週末の夏祭りにさ、アイツが浴衣着て来いって言うから。練習」
「後ろ向いて?……まあ、練習ならいいんじゃない? 本番はもっと衿抜いたほうがいいわよ。ちょっと窮屈そう」
「りょうかーい」

とりあえずのOKは出たから、脱ごうと思って部屋に戻ろうとしたその時。

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。

きっとセールスマンだろうとドア越しに『必要ありませんので』と断ったが、ドアの向こうで困った声がした。

「Amazonさまからの、お届け物なんですが……」

宅配便だった。
焦った私は慌てて鍵を開ける。

「すみません。てっきりセールスだと思って」

謝りながらサインすると、宅配便のお兄さんは、若干顔を赤らめて音が出そうな勢いで首を横に振った。

「い、いえっ! とても素敵なものを拝見させていただきまして、寧ろありがとうございましたッ!」
「え?」
「浴衣、とてもお似合いです! って、余計なことを失礼しましたッ!」

深々と、身体を真っ二つに折るように礼をして、お兄さんは走って立ち去った。

今度は私が顔を赤くする番。
週末に、少し自信を持った。


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