a bedside short story
12th.Aug. 線香花火
夏の終わりを予感させるのは、
ひぐらしの鳴く声と、
この、

線香花火。


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花火しようよ。


高校時代の友人達とキャンプ場のバンガローを借りて二泊三日のキャンプに来た。
キャンプに来て、バーベキューをして。

夏らしいことで占めた、夏期休暇最終日前日。
誰が持ってきたのか、ベタな花火セットが並べられた。

「俺、この流星~!」
「私、お化け花火にする!」

それぞれが好みのものを手にして、ふざけあいながら、はしゃぎながら色とりどりの閃光と煙を辺りに散らしていく。
ぼんやりその姿を見送っていると、花火セットの台紙には、もう線香花火しか残っていなかった。
ろうそくの傍にしゃがみ、そのうちの1本を手に取る。

夏の終わりを予感させるように、ちりちりと細い火花を散らす花火に、自然と息を詰める。
徐々に大きくなる先端の玉は次第にしずく型に形を変え、静かに土に飛び込んだ。
バケツにそっとこよりを差し込む。

いまだはしゃいでいる仲間達に加わる気が削がれて、私は集団から少し離れて夜空を見上げた。
都会に程近いキャンプ場。午前中は雨も降っていたし、感動するほどの星空は見えないけれど。満月と半月の間の月は、明るく闇の中で輝いていた。

「おい」

足音がした。
後ろから抱き締められた。

「たそがれてんじゃねえよ」
「それは夕方に使う言葉だよ」
「うっせ」

なぜか抱き締められる腕がみるみる強くなる。

「何? どうしたの?」
「なにじゃねえよ。バカ」
「バカって何よ。なんで私はけなされてんの?」
「うっせ、バカ」
「だーかーらー!」

私の首筋に頭を埋めて、あり得ない強さで抱き締めてくるから振り返りようもない。

「ねえ? 大丈夫?」

返事はない。
でも何となく嫌な気はしなかったから、しばらくそのままにしておいた。


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