a bedside short story
5th.Aug. かき氷
今日は暑かったから、かき氷の写真を選んでみた。
写真はシンプルなものだけど、私だったら白玉が載った宇治金時がいいなあ。


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『実験したいから、手伝って』
そんなメッセージが届いて、訝しがりながら訪れた“彼”の部屋。

入ってみたら、テーブルの上に、立派なかき氷器が載っていた。

「ずいぶん立派なかき氷器だね」
「うん。ネットで安かったから買ってみた」
「実験って、かき氷なの?」
「まあね。かき氷そのものっていうか、氷みつのほう」

訳の判らない説明をしながら、“彼”は私の目の前に2本の氷みつを並べた。

「どっちがいい?」

イチゴとブルーハワイの二択らしい。

「じゃあ、無難にイチゴ」
「そう言うと思った」
「悪かったわね、予想通りで」
「いや。期待も入ってたから。イチゴ選ぶ彼女のほうが可愛いげ感じる」
「あっそ。」

大の大人が何言ってるんだと思いながら、大袈裟に溜め息をついて見せた。

「……で、実験ってどうやるの?」
「みつの色って混ざるのかなって」
「……は?」
「この2色が混ざったら、緑になるのかなって」
「……はい?」

台詞を2回反芻してみたが、やっぱり意味が判らなかった。
落ち着いて思い出してみる。
私の知る“彼”は、国公立理系の四大卒だったはずだ。
かき氷のみつの色が混ざるかどうかなんて、疑問に思うタイプでも無かった。
というか、そもそもそれならみつを混ぜてみればいいだけで、私が呼ばれる必要はない。

……どうしたよ?

本気で心配した私の前に、なみなみ盛られたイチゴ氷が置かれる。“彼”の前には同じくブルーハワイ。

「電動って速いしラクでいいな」

いただきまーす、とあっけらかんと言いながら、特別変わりなくかき氷を食べる“彼”。
私も倣ってイチゴ氷を食べ進める。

そして食べ終わった。

「ねえ、口開けて?」

正面に座っていた“彼”が隣に移動してきて口を覗き込む。

「いい具合に赤いな。……俺は?」
「舌のこと? 真っ青だけど?」
「そりゃよかった。じゃ、失礼」

めちゃくちゃ簡単に断りを入れて、“彼”は唐突にくちづけてきた。
突然のことに、目を閉じることもせず私はまばたきを繰り返すが、完全にスルーして口の中に舌を入れてきた。

人工的な甘い味が口の中で混ぜられる。
舌の表面を撫でるように、“彼”の舌が舐めていく。
そして
ゆっくりと離れる唇。

「……混ざる前に、色、消えちゃうんだな」

私の半開きの口の中をチラッと見た“彼”は、そう呟いてから、そそくさと氷を取りに冷蔵庫へ向かう。

でも私は見逃さなかった。
“彼”の口元に浮かんだ、消しきれなかった笑みを。


キスしたかったなら、そう言えばいいのに。

私は音を消して吹き出した。


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残り、あと26枚。
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