ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「8年半?・・美桜、君は大丈夫だったのか?それだけが気懸りで・・。」

「お兄様、聞いて。「山科」は崩壊したのよ。父も捕まったわ。安心して目覚めてね。」

私の言葉に、聖人は瞳を揺らして慧を見上げた。

「ハル・・。まさか、約束通りに君が父を?」

「ああ、山科亨三は数週間前に逮捕された。お前の集めた証拠が役に立ったんだ。
危惧していた山科ホールディングスは、二条グループが買い取った。
後はお前に託す予定だ。さっさと元気になれよ。」

「すまないな、ハル。お前に全部やらせてしまったんだな。情けないな「共犯」なのに・・。」

「いいや、決定打はお前の証拠だ。長い事お疲れさま。
これからはお前の新しい人生が始まる。・・命を懸けてよく戦ったな。」

涙を流した兄は、慧を見上げて心の底から泣いていた。

落着きを取り戻した兄に、部屋に入れずに戸惑っている2人の話をしなくてはならなかった。

「お兄様・・。鑑定の結果、確かに私と貴方の父は違ったわ。
お兄様はお母様と、愛し合っていた倉本との唯一の子供だったの。
母は父を捨てて、倉本と家を出たわ。
その時は殺されかけたけどね。」

驚きに目を見開いた兄は、入り口に立ち尽くした倉本と泣いている母に視線を向けた。

「母様をも殺そうとしたのか・・。
全てを母と僕のせいにしていた。
僕と美桜が思い通りにならない事もこの結婚がそもそも間違いだったと。」

「倉本はいつも私達に優しくて、倉本がお父様だったらいいのにって何度思ったか・・。
逆に、私の中に父の血が流れているんで、心底ガッカリよ。真実を聞いた時、どれほどお兄様が羨ましいと思ったか!!」

ゲンナリした表情で吐き捨てた言葉に、兄は噴き出した。

「ははは。なんだそれ。母の気持ちも分からなかったし、正直恨んだ。
あいつの言う通りで僕が家の癌なのかと思考を飲まれた。結果、情けない真似をしてすまなかった。
色々あっただろうにお前は相変わらず、強いな。」

「メールを見て察したよ。全ての真実を独りで抱えて大変だったな。」

「そうだな・・。
でも、助かって良かった。
これからの全てを、自分の目で見届ける事が出来る。」

2人は微笑みながらパシッと手を叩いた。

「これで約束は果たされたな。」

ハルが安堵の表情で聖人と私を交互に見つめていた。

「共犯関係も終わりだな、ハル。お前とだから出来たんだ。」

15年もの時を経て、2人の心からの願いが叶えられた瞬間だった。
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