ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
痛む頭を押さえながら記憶を辿る。

海と行った地元の花火大会である人物を見つけた。

その姿を見かけて、つい嬉しくなった私はその子に声をかけて抱き着いた。

海が、表情を歪め、睨み付けた事など・・全く気付かなかった私は無邪気にはしゃいだ。

私が駄々を捏ねて3人で花火を鑑賞したその帰り道に、高い塀に登って降りれなくなった子供を助けようとして転落した。

命を取り留め、数カ所の骨折と打撲の治療の為に約2カ月間入院したのだった。

・・・次の瞬間、トラックを追いかけて走る子供の頃の自分の姿が過って胸が締め付けられる。

退院して戻ると、その子とはいつもの場所で全く会えなくなった。

お家の前に行くと、白い1台のトラックが止まっていた。

その子は、下を向きながらトラックの助手席に乗っていた。

やがて走り出したそのトラックを追いかけた私は、小さくなっていくトラックを見て涙を流しながら立ち尽くした。

その子を私は「ハル」と呼んでいた。

何度も叫んだその名は、今も思い出す度に胸が傷む。




「—--美桜!?おい、どうした?」

目の前の豪華なお菓子のタワーと、冷めた紅茶が視界には映っていた。

「・・・うん。私の我儘で海君もハルにも嫌な思いをさせて、その挙句あの事故で・・心配かけたんだよね。」

「いや、もうそれは・・。あいつには、あの事故の後であの人が病院の待合室で激怒して大変だった。
それに重ねてあの不幸な事故だったしな・・・。不憫だとは思ったよ。」

苦しそうに、海は溜息をついた。

「ちょっと待って海君・・。事故って何?・・不憫て何があったの!?」

一体あの後、ハルに何か起こったの?

助手席で俯いていたあの子の頬には一筋の涙が流れていた。

私は何も知らない。

私だけいつも何も知らないのだ・・。

「お前、知らないのか?ハルの父親・・。山科メディカルリサーチインスティテュートの研究者だっただろう。」

私は驚いて目を丸くする。

「・・・うちの?で、そのハルのお父様がどうされたの?」

心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。

恐ろしい程、喉がカラカラに乾いていた。

「お前が入院している間に、研究所内で飛び降り自殺で亡くなったんだ・・。俺は、隣のクラスだったから噂の事は覚えている。あの狭い町での一大センセーションだったぞ。」

「自殺!?ハルのお父様が?・・・嘘よ!?」

私は、呆然とした表情で椅子から崩れ落ちそうになった。

あの日一人ぼっちになったのは私じゃなかった。

・・・父を失い、あの町を出て行ったハルの方だった。

「美桜?大丈夫か。顔が真っ青だぞ・・・。」

「私のせいではないの?あの父が、ハルのお父様に何かしたんじゃ・・。」

「君の事故は彼のせいではない。それは飛躍しすぎじゃないか?
だけどあの事故は、少々キナ臭い。
最初は転落事故と報道されたのに、自殺に切り替わった・・。不可解な報道だった。」

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