これを愛と呼ばぬなら
「もういいわよ、本人に聞くから。あっ!」

 職員室の中から飛び出してきたのは、悠祐くんのお母さん――藤見さんだった。私の顔を見るなりものすごい形相で飛びかかって来る。

「あんた、どういうつもりよ! 教え子の親に手出すなんて」

 藤見さんは私の前に立つと、思いっきり頬を引っ叩いた。パシンと渇いた音が廊下に響く。視界がぐらついて、尻餅をついた。キーンと耳鳴りがする。

 驚いて顔を上げると、藤見さんはきつく眉根を寄せ、私を睨み付けていた。

 ……違うのに。一方的につきまとわれていただけで、私から何かしたわけじゃない。

「……そんな、私は何も」

「何よ、シラを切るつもり?」

 しかし思考はまとまった言葉にならず、ようやく絞り出した声も、藤見さんが遮ってしまった。

「ふざけんじゃないわよ、この泥棒猫が! 最初に誘ったのはあんたの方だって旦那が言ってるのよ」

「ち、違います!」

「嘘つくんじゃないわよ!」

 怒りで盛大に顔を歪め、藤見さんは再び手を振り上げた。

 またぶたれる。ギュッと目を閉じると、「ふ、藤見さん、ダメですよ!」と鈴木先生の焦った声が聞こえた。

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