これを愛と呼ばぬなら
 あの後も時々ライブラリーを訪れているけれど、新井さんと会えてはいない。優子さんによると、お店にもずっと顔を見せていないらしい。

「仕事が忙しいみたいなこと言ってたから、時間がないのかも。もしいらしたら、美沙ちゃんが謝ってたって伝えておくわ」

「お願いします。それと、これを渡してもらえませんか」

 優子さんに託したメモには、私の連絡先が書いてある。

 今思えば、私の男性不信が原因で新井さんにも失礼な態度を取っていたかもしれない。世の全ての男性が私を傷つけようとしているわけではないのだ。

 新井さんは、たぶん私のことを気遣って、連絡先を聞かず口約束だけにしてくれた。

 三ヵ月経ったけれど、新井さんから連絡はない。指輪なんてなくても、彼はもう自分自身の力で失った恋を乗り越えたのかも。……そうだったらいいな。

 もう会えるかも、わからない人。でも、彼がこの空の下、幸せに過ごしてくれていたらいいと願う。

「帰ろう」

 いよいよ本降りになってきた雨の中、私はさっきまでより明るい気持ちで、一歩を踏み出した。

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