これを愛と呼ばぬなら
新井さんが連れて来てくれたのは、海辺にあるレストランだった。
「そんなに気取った店じゃないから安心して」
新井さんの友人が経営しているというそのレストランは、彼が言う通り、こじんまりとしているけれど温かい、アットホームな感じのお店だった。
とは言っても、メニューを開くと横文字が並んでいて怖気づいてしまう。こういう料理って、どう注文するのが正解なんだろう?
「食べられないものはある?」
メニューを開いてあたふたしていると、新井さんに問いかけられた。
「いいえ。好き嫌いも、アレルギーもありません」と言って首を振る。
子供達の前で、給食を残すようなまねはできないから、保育士の仕事をするうちに苦手だったものも難なく食べられるようになってしまった。
「そう、よかった。オーダーは任せてもらってもいいかな?」
「……お願いします」
助かった……と、ホッと息を吐く。体のこわばりが緩む感覚がして、ずいぶん緊張していたのだと気がついた。それもそうだ。よくよく考えてみれば、私は男性と二人きりで食事をするのは初めてのこと。しかも相手は自分が勤める会社の社長だなんて、緊張しない方がおかしい。
「薮内、オーダー頼む」
「ああ、今行くよ」
新井さんに呼ばれて出て来たのは、シェフにしてはやたらと体格のいい、快活な笑顔の男性だった。