これを愛と呼ばぬなら
 ドキッとして、思わず肩を竦めてしまった。新井さんの鋭さに驚いてしまう。

「……実は、約束していた日の前日に仕事を辞めることになって。動転していて、約束のことも忘れていたんです。本当に申し訳ありません」

「やめて潮月さん、頭を上げて」

 言われるままに顔を上げると、新井さんは私を見て静かに微笑んだ。

「君のことだから、きっと何か事情があるんだろうって思ってたよ。それに後からちゃんとフォローもしてくれた。もちろん俺は、怒ってもいない」

「新井さん……」

「それに、言っただろう。俺は君に感謝してるんだ」

 新井さんは、さっきも薮内さんに私のことを恩人だと話していた。

 ライブラリーで再会したあの日、私は新井さんに立ち直って欲しいと心から思った。もう一度会う約束をしたのは、そう強く思ったから。

 でも、結局私は自分から取りつけた約束を破ってしまったし、婚約指輪も返せていない。恩人だなんて思ってもらえるようなこと、私は何もしていない。

「……でも私は、新井さんに感謝されるようなこと何一つしていません」

 むしろ失礼なことをしてしまっている。いたたまれなくなって俯くと、新井さんは優しい声で、「それは違うよ」と言った。

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