これを愛と呼ばぬなら
「わかりました。こっちのことは心配しないで、今日はゆっくり休んでくださいね」

『ありがとう。ホントにごめんね……』

 最後にまた大きく咳き込んで、依里子さんからの電話は切れた。

「……依里子さん、大丈夫かな」

 いつもとは違って声もか細かったし、何より咳がひどかった。季節の変わり目で昼と夜ではだいぶ気温差があるし、質の悪い風邪を引いたのかもしれない。

 依里子さんは都内にある実家を出て、会社から二駅先の街に一人暮らしをしていると聞いている。薬と、なにか栄養がつきそうなものを買って会社帰りに寄ってみよう。そう決めて普段より早めに持ち場についた。


 カウンターを開ける前に、まず、私達が所属している総務課に電話をかけた。

『こっちでも聞いてるわよ。駒井さん、体調よくないみたいね』

 依里子さんはすでに総務にも電話を入れていたようだ。電話を取った女性社員が心配そうな声でそう答えた。

「それで、今日の業務のことなんですけど」

 今日はいくつか、大きな商談の予定が入っていて来客も多い。一人で回せないこともないけれど、お客様を待たせるようなことはしたくないし、もう一人受付にいたら心強い。来客の多い時間帯だけでいいから、こちらに人を寄越してもらえないかと思ったのだけれど……。

< 71 / 83 >

この作品をシェア

pagetop