これを愛と呼ばぬなら
「申し訳ないんだけど、出張や研修が重なってて、今日はこっちも人が少ないのよ」

 その余裕はない、との答えだった。

「……わかりました。一人でやってみます」

 不安が、ないわけじゃない。でも、やるしかない。

 私は腹を括って、その日の業務に挑んだ。


「よかった。……やっと定時だわ」

 来客が重なり、多少お客様をお待たせすることはあったものの、大きなトラブルもなく、なんとか終業まで一人でこなすことができた。ホッと安堵のため息をひとつ吐いて、カウンターを閉める。更衣室へ向かおうと、ロビーに一歩踏み出した時だった。

「美沙ちゃん、今終わり?」

「……高橋さん」

 エレベーターホールの方から姿を現したのは、営業部の高橋さんだった。最近は忙しいのかここに顔を見せることがなかったから、すっかり油断していた。カウンターを隔てていない、近すぎる距離に体が固まってしまう。

「ねえ、今日こそ一緒にご飯行こうよ。いつも邪魔してくるあのおっかない人、今日はいないんだろ?」

「えっ?」

 私が高橋さんの誘いに応えないのは、依里子さんが邪魔するからだって思っていたのだろうか。そうじゃないのに……。

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