これを愛と呼ばぬなら
「そういうわけでは……新井さん?」

 新井さんが、不安気な顔で私を見ていた。

「ひょっとして俺、君を不安にさせてた?」

「……え?」

「声を荒げたり腕を掴んだりして、君を怖がらせたかもしれない……」

 二人で行った、海での話をしているのだ。彼が、指輪を海に投げ捨てた時の。

「知らなかったとはいえ、悪かった」

 椅子に腰かけたまま、新井さんが私に向かって頭を下げた。膝の上できつく拳を握りしめている。

「ご、誤解です。私、新井さんのことをそんなふうに思ったことありません!」

「本当に?」

 顔を上げた新井さんと視線がぶつかる。私は、そっと頷いた。

「私が怖いと思うのは、一方的に話したり、無理強いする人です。……力で言うことを聞かせようとしたり。新井さんはそんな人じゃない」

「よかった……」

 首を振る私を見て、新井さんは安堵のため息を漏らした。

「私、嬉しかったんです。新井さんと知り合って色々お話して、初めて対等な立場で男の人と話ができた気がして」

「……潮月さん、ひょっとしてこういう目に遭うのは初めてではない?」

「はい……」

 静かに頷くと、新井さんは表情を強張らせた。

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