エリート同期の独占欲
 長い指の先がさしたのは、フルーツやクリームが載っていないシンプルなフレンチトーストで、たくさんの中から選んだわりには地味なメニューだ。
 食べ物全般に興味がないというのは本当なのかもしれない。

「一番カロリーが低いのはどれかな」
「気にするんだ? もしかしてダイエット中?」
「というわけじゃないんだけどね……」
「変わらないのに。十年前と」
「そんなわけない」

 視線を落とし、下腹部を見下ろす。
 体重は十年前とほぼ同じだけれど、なんとなくたるみというか、むくみというか、ボディラインがもっさりしてきた。

「もう若くないもの」
「お互い様だろ。で、どれにする?」
「えっと……まだ迷ってる」

 こういうときに、ぱきっと決断できる自分でいたいのに、いつもならそうできるのに、ほろ酔いのせいか頭が働かない。

「せっかくだから珍しい味を試してみたいし、でも定番っぽいのも捨てがたいし」
「いくつか頼んで、食べきれなかったら僕が引き受けてもいい」
「いえ、そんなことをお願いしようとは思いませんのでご心配なく」

 丁重にお断りして水を飲んだ。
 しっかりしなきゃ。
 時刻はまだ夜九時を過ぎたところ。普段なら空腹を耐えながら残業していることも多い時間帯だ。

「あーもう、どれもおいしそう。どれでもいいや」

 半ば目をつぶって適当に指さした写真は、フルーツてんこ盛りの豪華な一品。トースト部分は二階建てで、カスタードクリームがかかっている。二千円……デザート一品にはなかなかいいお値段だけれど、けちけちしたくない。

「さんざん悩んだわりに雑だな」
「雑?」
「決め方が」
「いいの。いろんな果物がいっぺんに食べられるからお得だし」

 菅波は笑った。温度の低い笑い方ではなく、本気でおもしろがっているように見えた。

「それより、どうしてひろみちゃんにあんなこと言ったの?」
「あんなこと?」
「営業とかSEとか、外見でわかる特徴はないって。意地悪な言い方」
「彼女は意地悪を言われたとは思っていないと思うな」
「重役の口利きで入社してきた子なの。嫌われない方が賢明よ」
「お偉いさんのコネね。会田がそういうのを気にするとはね」

 馬鹿にされた。
 むっとしながら水をもうひと口飲む。次に菅波に挑発されたら、この水をかけてやろうと思う。

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