エリート同期の独占欲
「お待たせしました」

 助かった。タイミングを読んだように注文した品が運ばれてきた。

「わぁ……!」

 メニュー写真よりも豪勢に盛られたフルーツを見たら、テンションが上がってしまった。

「いただきます」

 綺麗に焼けたトーストにフォークを入れる。とろりとクリームが流れてお皿に広がる。
 口に運ぶと、上品な甘みが広がった。

「……おいし」

 菅波は無言で自分の注文した品を食べている。ナイフとフォークの扱いは言うに及ばず、紙ナプキンの使い方まで優雅で、菅波の周りだけクラシック音楽でも流れていそうに見える。
 格好つけているのではなく、本人にとってそれが自然な振る舞いなんだろう。

「フレンチトーストって今までに百回は食べたけど、その中で一番おいしい」
「ある程度の年齢になってからだろうから、二十年で百回か。年に五回……頻度高いな」

 いや、そんな厳密な計算をしたわけじゃなくて。
 というか、言葉尻をとらえられても困ってしまう。
 菅波は自分とは全然違うタイプの人間なんだ、と思った。
 どうして同じ部署に配属されてきたのか、上層部の意図はわからないままだけれど、自分とは異なる彼の考えが仕事にプラスになるかもしれない。そうであってほしい。
 菅波の視線を追いかけて隣のテーブルを見れば、二十歳くらいのカップルが互いに頼んだメニューをひと口ずつ食べさせ合っているところだった。いかにもラブラブな光景。
 さらに周りを見回すと、女性グループが約半分、残りは男女二人組だった。

「今気づいたけど、なんか……カップルだらけ……」
「やってみる?」
「何を?」

 菅波はテーブルに腕を置くと、ずいっと身体を寄せてきた。

(え、何? 顔が近いんですけど!)

 頬がかっと熱くなった。目をそらしたら負けな気がして、こらえる。

「……」

 このままだと、まるで――。
 息が触れ合い、顔と顔の距離十五センチというところまで近づいて、菅波は目を細めた。

「お互い食べさせ合う」
「やだ!」
「速攻で拒否されたら傷つくな。冗談なのに」
「そういう冗談……笑えないから」

 キスされるかと、思った。
 何しろ菅波だから、独特のペースでごく自然に、そういう行為に持ち込んでもおかしくない。
 気が抜けた。どきどきして損した。
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