【BL】お荷物くんの奮闘記
 服と一緒に取り返した腕輪は手元にある。

カインが倒れたことによって浮上していたこのフロアが崩れかけているところからして、“魔王”は既に倒されたものと認識されているはずだ。

そして今のところ、カインの記憶と思しき情報は自分の頭には入ってきていない。

リュータ――ウリエルには引き継ぎは行われないという話を信じるとするなら、今現在魔王の座には誰もついていないことになる。


 この状態でたとえば、資格を持たない自分が腕輪を使って他のデバックポイントと同じように管理者登録を行おうとしたらどうなるだろう。


 いざとなったら素早く発動できる首の魔法陣もある。完全に崩れてしまう前に、一度やってみるのもありかもしれない。


 分断された扉の向かいに、風雷の神殿入り口で見かけた石版と同じデザインのものを発見する。

フロア最奥にぽつんと置かれた、豪奢どころか質素そのものな石の玉座だ。

あの椅子に何かあるはず。近付いて椅子の背に触れたその時、誰もいなくなったフロアの全体が時間を止めた。

次いで周囲が暗闇に染まり、いつものデバックポイントの風景になる。

途端、一人だけしか進むことができないはずのデバックポイントに、なぜかリュータが飛び込んできた。


「ユウジ! ……あれ、ここどこ?」


「リュータ、おまえ……あー」


 デバックポイントとカインによって宙に浮いていたフロアの座標は同じだ。

座標の書き換え先が対象外の地点になる瞬間に、合流魔法陣でも使って滑り込みで二人入れたのだろう。

座標を入れ替える魔法なので、タイミングが完全に被れば動作に影響が出るのかもしれない。バグって今地上にはもう一人リュータがいたりして。
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