【BL】お荷物くんの奮闘記
 行くって、こっち来るのか。昼休み抜けれんのおまえんとこ。よく分からないが、最近はゆるいのかもしれない。


 言われるまま古書店を出て、店の横にある駐車場で待った。ほどなくしてリュータが走ってやってきて、ユウジ、とこちらの腕を掴む。どうしたそんなに慌てて。茶化そうとした瞬間、周囲が暗転したのだ。


 気付けば一人で草原にいた。ほんの数分前まで街中だったとは思えない大自然が視界いっぱいに広がって、電柱ひとつ見当たらない。


 草が足元で青々と風に揺れているが、伏せたところで人が隠れられる丈ではない。近くにリュータが倒れているということはないだろう。


 自分だけここに飛んできた可能性もなきにしもあらず。白昼夢か、今朝家を出てきた時点で既に夢の中で、目が覚めればまだ自宅に居ると考えるのが有力か。


 考えてみればあの辺りでこんな大自然なんて見られるはずがないし、これは夢だな。夢の中にまでリュータが出てくるとは。目が覚めたら電話でもしよう。


 さて、結論にたどり着いたところですぐに起床できるほど自分は器用ではない。夢を見ているということは眠りは浅いだろうが、一人暮らしの自分には声を掛けて起こしてくれる同居人などいないのである。
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