星天ノスタルジア

花火大会は明日。毎年開催される地元の夏祭りのフィナーレを飾る海上花火だ。


私が物心ついたころから開催されているけれど、花火を観に行ったのはほんの数回。混雑を聞くだけで疲れてしまう。


それに、私は人ごみが嫌い。


幼い頃に家族で行った花火大会で迷子になった苦い思い出は、何十年経った今も焼き付いて離れない。


彼と一緒に花火を観に行ったのは一度きり、付き合い始めて最初に迎えた夏だった。花火を観た記憶よりも、港へ通じるあらゆる道を埋め尽くす人ごみと殺気立った人たちで溢れる駅の景色の方が鮮明で肝心な花火は思い出せない始末。


「どこで観るの?」


本当に行くの?と尋ねたかったのに、出てきたのは全く違う質問だった。
そうじゃないだろうと心の中で突っ込む。まるで私が乗り気みたいじゃない。


彼は首を傾げて考えてる素ぶりをする。


「まだ考え中」


言い終えて、ゆるりと口角を上げた。
どうやら何にも考えてなかったらしい。思いつきで花火を観に行こうなんて、からかってるとしか思えない。


「どこも混んでそうね、じゃあ先に行くね」


まともに考えるのは時間の無駄。
私は彼を残して家を出た。


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