星天ノスタルジア

「手が届きそうだ」


彼の口から溢れた台詞も声もあの日と同じ。空を彩る花火を見上げた彼の横顔までもが、あの日の彼と重なる。


胸に響く花火の音と夜空を染める極彩色が、次々と思い出を溢れさせる。


まるで、あの時に戻ったような感覚。


梅酒の味が同じだと感じたのも、彼との思い出とシンクロしたからだろう。深く刻まれた彼との記憶が、あの梅酒と同じ味だと錯覚させたのかもしれない。


彼の手が腰から離れて、私の手を手繰り寄せた。彼の手を握り返すと、高ぶる気持ちが穏やかさを取り戻していく。
いつしか穏やかさは自信へと変わっていた。


時を重ねて思い出が遠ざかっても、記憶の中に散らばってしまっても、彼が居てくれれば拾い集めることは容易いはず。ふとしたことが思い出を呼び起こしてくれる。


だから、これからもふたりで思い出を刻んでいきたい。


私たちは何にも変わらない。




ー完ー
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