ヘップバーンに捧ぐ
急かされるまま、専務の手を借りて
車から降りた。

専務が、指差した方向に
目線を向けた。


言葉が、出なかった。

「……………」


車を降りてみると、

そこには、無数の星が瞬いていた。

『今日は、ふたご座流星群が流れるんだって!
こんなに、雲ひとつないと探しやすいな。』

東京とは思えない程の、
無数の星、星、星。

東京は、眠らない街と言われるぐらい、
深夜でもライトが消えることはない。

しかし、こんなに暗闇が
優しく包んでくれる夜が東京にもあるなんて思わなかった。

『こんな所、東京にもあったんだとか
思ってる?』

「はい。
東京に住んで長いですけど、見たことありません。」

『だと、思った。
むしろ、来たことあるとか言われたら
ショックだし。
ここな、母さんの方のじぃちゃんが、
持ってる丘なんだ。
丘っていっても、そんな高くないし、
立派な木々が多いから
じぃちゃんここを秘密基地にしたかったんだって』

「その気持ち、分かります。
この場所を誰にも知って欲しくないです。
でも、専務、私に見せて良かったんですか?」

ヒトは、
秘密を自分一人で留めておけない生き物だ。
ナイショの話が、ナイショだった事は、
26年間の中で、ほぼ無い。

『咲良ちゃんには、
この場所知っておいて欲しい。
ここは、橘も知らない。

やな事あったら、ここに来て
リセットして、また明日から、笑うんだ。

だからね咲良ちゃんも、辛いことがあったら
ここに来な。
でも、必ず俺を連れて行くこと。
この道、危ないから。いいね?」

「はい。」

『あともう一つ、ふたりっきりの時は、
何て呼ぶんだっけ?
さーくーらーちゃん?』

やばっ、約束してたの忘れてた、、、

「忘れてました。翔駒さん。
こんな素敵な所、教えてくださって
ありがとうございます。」

「………(クッソ、可愛いじゃねぇか)………
今日は、初回割引で許してあげるけど
次は無いからね?
次下の名前で呼ばなかったら、
うーん、そうだ!

キスするからな………!』

「はいっ?
頭おかしいんじゃありませ?
バカですか?
そんな話、聞いたことありませんよ。
でも、分かりました。
受けて立とうではありませんか、翔駒さん!」

『無知って、怖い………

さぁっ、帰ろっか。
長居したら、夏でも風邪引くからね。』

「そうですね、
明日も早いですしね。
今日は、帰りましょう。」

「………
(ふたご座流星群、見たかったな)…」


『俺ん家に、ふたご座流星群の
写真あるよ。
他にも世界各地で撮った、
いろんな流星群の写真もあるしな。


今夜、ウチくる?』

「謹んで、遠慮申し上げます。」

この人は、エスパーかと思う。
前世、絶対シャーマンだよ。
ちょっと、バカな方の!

『うわぁー、ツンデレの
ツン戻ったー、、
あともうちょっとだったのに!!!』

しかし、強制的に
連絡先を交換させられたのは
この夜空に免じて、よしとしよう。

ちょっと、専務、改めて
翔駒さんが、可愛く見えたのは
ナイショの話。

ふたりを乗せた車の去り際、
何かがキラリと空から溢れた。







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