ヘップバーンに捧ぐ
勢いのまま、大通りまで出て、
取り敢えずタクシーに乗った。

『お客さん、どちらまで?』

「………星見丘までお願いします」

行けるなら、どこでも良かった。
けれど、思いついたのは、星見丘だった。
そう。翔駒さんに連れて来てもらった丘だ。



地面の凹凸を拾いながら、
今までの事を、思い出していた。

私が小さい頃、

日本に一時帰国したら

お母さんは、手作りのおやつを
毎日作ってくれた。

お父さんは、公園に行って日が暮れるまで
遊んでくれた。

そして、二人は寝ている私の頭を
ずっと撫でてくれた。

そんな記憶があるから、
どんだけ縁を切ったつもりでも、
切ることなんてできなかった。

連絡だって、無視出来た。

アドレスを変えても教えないことも出来た。

けれど、できなかった。

結局、
私が両親に対して壁を作っていた。

期待するとこが、嫌いなんじゃない

ただ、怖がっているだけだ

こんなにも、優しい記憶があるのに
私は、見ないふりして
両親のせいにした。

全ては、自分だった。

『お客さん、着きましたよ。

今日は良かったですね~
夜は雨の予報だったのに、星がいっぱいですな

お気をつけて!』

運転手さんの言う通り
翔駒さんに初めて連れ来てもらった時と同じ。

星が空一面だ。






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