ヘップバーンに捧ぐ

-翔駒side-

職権乱用も厭わず、咲良ちゃんのランチタイムを
俺が占領し始めて、3か月程たったある日、
田野島会長から連絡があった。

田野島氏は、田野島フーズの会長で
母方の遠縁にあたる親戚だ。

母は、あんな人、相手にしなくてもいいと言っていたが、
一応関西の経済界を牛耳っている手前、無下にもできない。



俺が30を超えてから、やたらと縁談を持ってくる。
 
『男30超えて、何ふらふらしとるんや。
結局、棚橋物産のお嬢さんとはうまくいかんかったやないか。

今度は安心せい
儂が、ええ子見つけてやったぞ。

東洞ホールディングスのお嬢さんや。
えらい別嬪さんでな、大学のミス何とかとらはったそうや
ほんでな、いっぺん逢うてみ
気立てが良くてあれは、いい奥さんなるで』

「会長
もう縁談は持って来ないでほしいと何度御願いしましたか?
自分の伴侶は自分で決めます」

このくだりで、30分はかかる。

『九重から、聞いておるぞ
なんや、会社の女の子頻繁に昼飯誘っているらしいな
その子と夫婦でもなるんか?

庶民のお嬢さんなんかと
結婚したらあかんで
お前は、ASAKURA背負ってるんや
はよう、自覚せい』

九重の野郎。
ただ五月蠅いデブジジイなら多少のことは目をつむったが、
田野島会長の情報屋やってやがる。
それでしか、この世界で自分のポジション保てない無能な中年おっさんだ。

田野島会長からの命令で、
うちにやってきた。
この世界、好き嫌いでは
人を選べない
ある程度の、利害の一致は
必要なのだ。



「会長、再度申し上げます。自分の伴侶は自分で決めます。
それと九重さんに、お伝え下さい。
人の婚期心配する前に、ご自身の女性問題の方を
ご心配された方が宜しいのではと」

『お前まさか、真子みたいに
恋愛結婚なんてできると思ってんか?

恋愛結婚に何の価値がある?目を覚ませ
とにかく、一度東洞のお嬢さんには逢うてもらうで
ほなな』

あぁぁ、うぜぇ。
あいつ一回締めなきゃ気が済まねぇ

『そんな顔、三波さんに見せんなよ』

珍しく橘が、敬語なしで話しかけてきた。

「あぁ、わかってる」

『会長のことは、こっちで何とかするから、
お前は早く、三波さん捕まえろ

今日も、あの子今夜誘われてたぞ
まぁ、話かみ合わないまま男の方が諦めてたがな』

「どこだそいつ?
地方飛ばしてやろうか、そいつ」

『そんな輩、これからもうじゃうじゃ出てくるんださっさと捕まえて結婚しろ』

「俺の中じゃ、もうとっくに咲良ちゃんと結婚してるはずだよ
世の中、そう問屋が下ろさないもんさ
まぁ、安心しとけ
それはそうと、早く咲良ちゃん迎えに行って来い
どうせ、俺に行かしてくれないんだろ』

『当たり前だ。
この間、白井のことあったばっかだ。
彼女を守ること考えろ。
その間、お前は手を洗ってよだれかけでもかけてろ』

よだれかけって何だよ!
あいつ一回締める!

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