My hero is only you
「先輩が好きでした。ひとつだけ、わがまま聞いてもらえますか?」

「何?」

「一つだけ、思い出を下さい」

 言った瞬間、手を引っ張られた。

 額に一瞬だけ感じた感触。

 それで充分だった。

 暗闇の中、顔がはっきり見えなくてよかった。

「ありがとう、ございました。さようなら」

 教室を後にした。

 廊下の窓から見える景色が、雨に煙っている。

 雨が降るたびに思い出すだろう。

 きっと、あの人も。

 簡単には忘れることなんてできない。


この雨があの人への思いも涙も

流してくれるといいのに

今までのことが夢だったのか

これが夢なのか

何もかもが雨に流れてしまえばいい

この気持ちが軽くなるように
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