My hero is only you
「俺は知っていたんだ。君の気持ちも転校の話も」

「どうして・・・」

 声が掠れてしまう。

「転校の話は、君が職員室で話しているのを、たまたま聞いてしまってね」

 暗闇の中、どんな表情をしているのかはわからない。

 だけど、伝えなくちゃいけない一言がある。

 伝えたい一言がある。

 喉元まで来ているのに。

「君の気持ちは、君と毎日話しているうちに気付いた。だけど、ずっとそれに気づかない振りをしていたんだ。君のためじゃなく、俺のためにね。俺はずるい男だよ。このまま、こんな日が来ないことをひそかに祈っていたんだ」

 そこで一旦、言葉が止まった。

 両耳を塞ごうとしても、手が動かない。

 声も出ない。

 これ以上は聞きたくない。

 この先の続きを聞いてしまったら、どうなってしまうんだろう。

「君がどんなに思っていてくれても、俺にはその気持ちには応えられない。それはできないんだ。俺には今、好きな人がいる。そのひとのことだけしか考えられない」

 涙が溢れて止まらない。

「君が思っているほど、俺はいい人じゃないよ。泣いている君に何もすることはできないし」

「・・・最近、優しくしてくれていたのは、何もかも知っていたからなんですね。私が勝手に期待していただけなんだ」

 ただの後輩として扱っていただけなんだ。

「こうしてちゃんと話ができて、よかったです。でも、最後にちゃんと言わせてください」

 顔をしっかり上げて、精一杯の笑顔を浮かべて。
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