My hero is only you
 これ以上ここにいては邪魔になってしまうので、その場を離れて、空いている席へと向かった。

 明日の予習でもやるかと思って、数学の教科書とノートを出す。

 静けさの中に聞こえるのは、本をめくる音、鉛筆で何かを書いている音など様々だ。

 そして、時間を刻む時計の音。


時は待たずにどんどん進んでいく

こうしている間にも

このまま何も伝えられずに?


(それはいやだ!)

(あの人にとっては迷惑になるだけよ)

 頭の中で二つの別々の声が聞こえる。

 ひそかにため息をついた。

「?」

 どこからか視線を感じて、顔を上げた。

 あの人が席を立って、こちらに向かってくる。

「どうした?具合でも悪いの?それとも悩み事?」

「いえ、ちょっと寝不足なだけで、大丈夫です」

 確かに寝不足なのも事実なのだけれど。

 慌てて作った笑顔。

 きっと無理をしているのがわかってしまっているだろう。

 心配そうに覗き込む視線に耐えられなくて、俯いてしまう。
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