My hero is only you
 閉室の時間が来た。

 ずっと時計の音ばかりが気になっていた。

 みんなが出て行った一番最後に、図書室を出る。

 自分の鼓動の音が聞こえる。

 腕時計の秒針よりも早い。

 図書室を出てすぐの所に、待つ人影。

「何処なら、話しやすいかな?」

 気を使ってくれているのがわかる。

「教室の方がいいです」

「じゃあ、俺のクラスの方が近いから、それでいい?」

「はい」

 先を歩いていく背中。

 こうしてずっと見るのは、多分初めて。

 もしかしたら、最後かもしれない。


 一つの教室の前で止まった。

『3-2』

 天気が悪いため、教室内は薄暗い。

 電気を点けようとするのをとめた。

「電気は点けないでいいです」

 静けさと暗闇の中で顔を上げる。

「ずっと、先輩のことを見てきました。初めて会ったあの日から。でも、明日で転校することになって、どうしても伝えておきたくて。私、先輩のことが・・・」

「俺は・・・、知っていたよ」

「え?」

 言葉を遮るように、低い声が聞こえた。

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