私だけの月になってよ。
プロローグ


甘い匂いが私の周りに漂う

そして、甘い声が耳元で囁かれる

吐息交じりの甘い声

私はその匂いと声にいつの間にか落ちていた



















その瞬間から彼に溺れていたのかもしれない
優しい彼も…総長としての彼にも
彼が私の月になってくれた。真っ暗だった心を明るく照らす月に。


"朔夜"の総長 石元翔弥(いしもと しょうや)
      ×
闇を抱えた少女 星川愛栞(ほしかわ あいり)






自分の心とは違って青く雲一つない空が私の頭の上に広がっていた。

「今日も、綺麗だな」
私は、何気なく呟いて、そのまま学校に向かって足を進めた。

学校に着くと後ろから声をかけられた。
「よっ。」
振り返ると、黒髪に金のメッシュが入った唯一の友達と呼べる存在
無神大雅(むかみ たいが)がそこにいた。

「おはよう 今日は珍しく学校に来てるんだね」

「俺だって、来るときは来るんだよ」

大雅は、滅多に学校に来ない。何かの理由がない限り。
「先生に呼ばれたんでしょ。どうせ」

「なんだよ そのどうせって まぁあたりだけどな」

「ほらね 大雅が学校サボるからだよ」

「俺にも色々あるんだよ つか早く教室いくぞ」

「はーい」

こうやって何気ない会話を大雅とすることが私にとってすごい楽しかったりする。
大雅といる時が素の自分でいられるから。






教室につき1人で休憩時間を過ごしていると
「今日ね、学校に来るとき"朔夜"の綾斗さんと翔弥さん見ちゃったぁ」

教室の女子がそんな話をしていた。さすがに世間に興味が無くても名前だけは知っている。

"朔夜"は有名な暴走族だ。
全国トップの暴走族で知らない人はいない。その、総長をしているのがさっき名前が上がった、翔弥さん。
フルネームは、石元翔弥(いしもと しょうや)。

私は、名前だけしか知らないが相当イケメンらしい。
だから、学校の女子が惚れるんだ。

はっきり言って、私は興味ない。男なんて裏切るもの。そう思って過ごしてきたから、恋なんて縁のないものだと思っている。

「やっぱり、綾斗さんかっこいいよねぇ」
「えぇ~、うち翔弥さんがいいなぁ」
「悠馬さんもいいよぉ」

女子たちの話はもう"朔夜"の話ばかりになっていた。
そんな話を聞きながら私は眠りについた。

気づいた時には外はオレンジ色に染まっていた。
「やばっ‥‥寝すぎちゃった」

まぁ、寝すぎたからと言って何かあるわけではない。
何もすることないし、それに‥‥家に帰りたくもない私は1人でよく行くお店に行くことにした。







夕暮れがかった人通りの少ない所にあるこのお店は私にとって特別で楽になれる場所だ。

人通りが少ない分、知り合いに会うこともなく素の自分が出せる場所だった。

「淳也さん、今日も来たよ」
ここの店長である降矢 淳也(ふるや じゅんや)さんは本当に優しく私を出迎えてくれる。
深く私のことを聞こうとしない。笑顔で私の話を聞いてくれる。それくらいの関係が私にとって楽だった。

「今日も愛栞ちゃんは元気だね 今日は何がいいかな」

淳也さんのとても優しい声は私の心を和ませてくれる。
学校では別にいじめられてるわけじゃない。ただ、人が信じれないだけだ。

「オレンジジュースとオムライスがいい!」

素直に自分の好きなものを頼むと聞き覚えのある声がお店に響いた

「相変わらずお前はオレンジジュースが好きだよな」

振り向くとここで知り合った 竜我悠馬(りゅうが ゆうま)がいた。
「悠馬、久しぶりだね!」
悠馬は自分より2歳上の18歳 私は高1だから16歳だ。
黒髪にオレンジ色に近いメッシュが入っている。身長も、高く私から見てイケメンの分類にはいると思った。

「でも、オレンジジュースは100%じゃなきゃ嫌だけどね!」
「そこも変わらないのな」
「一昨日あったばっかりなのにそんなすぐ変わるわけないでしょ」

そういいながら、淳也さんから出されたオムライスを口にする。
ふわふわの卵が口いっぱいに広がる。ここのお店のオムライスが私はとても好きなんだ。

オムライスを完食し、スマホをつついていると悠馬のスマホが鳴った。

「あぁ、俺だけど そっ、分かった 今から行く」
仕事の電話なのか知らないし電話相手が誰なのかも知らない。
でも、毎回電話が来るたび悠馬の顔は怖い顔をする。

「んじゃ、店長うまかったぜ 愛栞またな」
さっきの怖い顔が嘘かのように優しい笑顔で悠馬はまた会えるかのようにまたなと言って店を出た。

「次会えるかなんて...分かんないのに」
私は淳也さんにさえ聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。




お店を出るころには外はもう真っ暗だった。
淳也さんは外はもう暗いからと送ってくれようとしたのだが、店の片づけもあるし迷惑をかけたくないので断った。

「愛栞ちゃん気を付けるんだよ」
「ありがとう淳也さん じゃあね!」

淳也さんに手を振りながら私は真っ暗な通りを早歩きをしながら帰った。


この通りは真っ暗なせいで拉致りやすいということで有名だったりもする。そんな所を女が1人で通っているのだから何も無いわけがない。

グイッ!!
いきなり、腕を掴まれて後ろに引っ張られた。振り向くとガラの悪い男が3、4人私を囲んでいた。

「な、何なんですか!あなた達は」

1人の男がニヤリと不敵な笑みを浮かべて私を見つめていた。その笑顔がとても気持ち悪くそして怖かった。

「離してください!」

「ねぇ、彼女 可愛い顔してるじゃん 俺たちと楽しいことしようぜ」

「嫌だ!離して!」

私でも分かる。こいつの言ってる楽しいことが絶対楽しくないことくらい。
必死に抵抗するものの女1人の力が男にかなうわけがない。
そして、そのまま連れていかれようとした時...-


「お前ら、俺らの目の前で何してんだよ」

低く、誰が聞いてもドキッとするようなそんな声が響いた。
声の方向を見ると、赤髪の男と黒髪に眼鏡をかけた男がそこにいた。

「なんだてめぇら!!とっとと失せやがれ!」

「本当、マジだりぃんだけど お前らが消えてくんねぇかな?」

「綾斗落ち着いて」

そう言って赤髪の男を落ち着かせようと黒髪の人が声をかけるが赤髪の人は声が聞こえてないのか恐ろしいほど男たちを睨んでいた。
背中が凍りつくような目で睨まれた男たちは震え上がった。

「おい、こいつら 見たことあると思ったらあの朔夜の...」

「俺らの顔知ってんだったら失せろ」

「お前ら帰るぞ!!」

男たちは2人の男にビビリそのまま帰っていった。

「大丈夫だった?」

黒髪の男の人が優しく声で私に話しかけてきた。そして、手を私に差し出してきた。

「はい、ありがとうございます」
私はその手を掴み引っ張られながらゆっくり立ち上がった。

「女が1人でこんな拉致られやすい場所歩いてんじゃねぇよ」

「ごめんなさい...」

「怖い思いをしたんだ そんなきつく言うなよ 綾斗」

「ったく、家どこらへんだ?近くまで送っていくぜ いいよな 翔弥」

「いえ、私は大丈夫なんで」

せっかく助けてもらってその上送ってもらうなんて迷惑だと思い断ろうとしたが...

「そうだな その方がいい それに君の手、怪我してるし」

手を見てみると気づかない間に手を怪我をしていた。

「手当てさせて、終わったらちゃんとお家に帰すからさ」

「また、拉致られても困るしな」

「こら、綾斗 女の子に失礼だぞ」

「あいよ」

「さて、じゃあ 行こうか」

そう言われ、仕方なく彼らについて行くことした。


私の前を歩く彼らの背中

この大きな背中をこれからもずっと見ていくなんてこの時は想像もしていたなかった。


2人の後ろを私はついていった。すぐ近くのコンビニの前に置かれていた2つのバイク。
そしてさっき去っていった男たちの言葉を思いだした。

…―"朔夜"

「あなたたちってまさか暴走族なんですか?」

ふと私は気になり2人に問いかけてみた。

「なんだお前、俺らのこと知らねぇのかよ 珍しい女もいるもんだな」

「確かに、珍しいね」

黒髪の男の人は足を止め、私の方を向いてニコリとほほ笑んだ。さっきの男たちの笑みとは違い、気持ち悪さや怖さはなかった。

「俺らは朔夜っていう暴走族なんだ 俺はそこの総長 石元翔弥 怖がらせてごめん」

「俺は赤牙綾斗(せきが あやと) よろしくな」

2人は自己紹介をしてくれた。…―ん?石元翔弥…赤牙綾斗…この2人が!?

「あなたたちが、朔夜の総長と副総長!?」

「おっ!なんだ知ってるじゃねぇかよ」

名前だけは知っている。でも、顔は知らなかった。確かにこの2人学校の女の子たちが言ってた通り…イケメンだ。

「あなたたちの名前だけは聞いたことがあったんですけど、顔は知らなかったので」

「ほんと、変わってんな お前は」

副総長である赤牙綾斗がそう言ってきた。

「俺ら見て媚び売ってこねぇ女 あいつ以来だぜ」

「媚び売るなんて私、そんなのしたくないので」

媚びを売るなんてそんなことしたくないというよりかは嫌いというほうが正しかった。媚び売ってなんになるっていうんだ。
いいことなんて何1つないのだから。

「ほんとに、変わった子だね 君は」

「そうですか?私みたいな子ほかにいると思いますよ」

「中々いないよ 君のような子 そういえば名前聞いてなかったね」

「私、星川愛栞です」

「年は?」

「16です」

「じゃあ、俺らの2つ下か 愛栞、改めてよろしく」

人懐っこい明るい笑顔その笑顔に私は吸い込まれそうになった。
そして、私に向けて差し伸べられたその手をそっと握った。

「よろしくお願いします」

「俺たちのことは呼び捨てでいいからね」

「そうだぜ、俺のことは綾斗って呼べよ それに敬語なんて無しだからな 堅苦しいたりゃありゃしいねぇ」

「でも、先輩ですし…」

「大丈夫、気にしなくていいって 俺ら まぁ綾斗も言ってたけど堅苦しいの苦手だから」

「分かった よろしく 翔弥、綾斗」

これが"朔夜"の総長、副総長との出会いだった。
月明かりに照らされる彼らの笑顔は誰が見てもドキッとするほどかっこよかった。








「つか、早く行かねぇとこいつの親も心配するんじゃねぇか?」

綾斗が翔弥にそう言った。

「そうだな さて、なら行きますかね 愛栞、俺の後ろに乗って」

そう言われたが、バイクの後ろになんて乗ったこともないからどうすればいいか分からず私は立ち尽くしていた。

「愛栞、お前まさかバイク乗ったことねぇの?」

「...うん」

私は綾斗からの質問に素直に頷いた。
その姿を見た翔弥が私をそっとバイクの後ろに乗せてくれた。

「愛栞、しっかり掴まっててね 落ちると危ないからさ」
翔弥は、優しく笑顔でそう言った。

「...-マジかよ 翔弥が女を後ろに乗せた所初めてみたぜ」
綾斗はびっくりした顔でそう言った。

「てっきり、俺の後ろに乗せると思ってたのによ」

「お前の後ろは恵美の特等席だろ」

...恵美??聞いたことない名前だったが、話の内容的に綾斗の彼女さんなのだと思った。

「あぁ、恵美は俺の女」
顔に出てたのか、綾斗がそう教えてくれた。

「愛栞にもいつか紹介するからね さて、じゃあ倉庫にいきますかね しっかり腰に掴まっててね 」

そう言って翔弥はバイクを走らせてた。
初めてのはずなのに翔弥と一緒にいるとなんだかとても安心し落ち着く感じがした。

大きい倉庫の前で二人のバイクが止まった。
ここが朔夜の倉庫なのだろう。

「着いたよ ここが俺ら朔夜の倉庫だよ」

思った通りここが朔夜のたまり場だった。

翔弥は私を降ろした後スタスタと倉庫の方へ向かっていった。
その後ろを綾斗がついていく。

「おい、そんなとこ突っ立ってねぇで早くこい」
綾斗にそう言われ私は早足でついていった。

すると、倉庫の奥から1人の男の人が出てきた。

「遅かったな なんか、あったのか?」
片目が黒のサラサラの髪で隠れているが見るからにイケメンの分類に入る。そして、優しい声が倉庫に響いた。

「おっ、光来てたのかい?」

「相変わらず、変な口調やんな 翔弥はよ」

その光という人は翔弥と話してから綾斗の後ろにいる私に気づいた。

「おい、こいつは誰だよ」

「あぁ、こいつのこと言ってなかったな さっき、ナンパされてたところを助けたんだ 愛栞っつうんだよ」

「なるほど、俺 黒崎 光(くろさき こう) よろしくな」

光という人は、私にそう言った。

「初めまして、星川 愛栞と言います よろしくお願いします」

「へぇー また、見た目だけで寄ってきた女かと思ったんやけど違うんやな 怪我とかはないんか?」

光という人は私に心配してくれた。

「はい 翔弥と綾斗が助けてくださったので」

「そうやったんか さすが、翔弥と綾斗やな でも、少し手が怪我してるからあとで手当てせんとあかんな」

光さんは、そう言ってニコッと笑ってくれた。

すると倉庫のドアが開いて1人の女の子が立っていた。

「綾斗いる?」

綾斗の名前を呼ぶ透き通るような声が倉庫内に広がっていった。

「ん? あぁー 恵美来てたのか」

恵美と呼ばれた女の子は綾斗の方に向かって嬉しそうに走っていった。
可愛らしい笑顔で綾斗に話しかけるこの子はきっとあの綾斗の彼女さんであるんだと確信した。




「あっ、翔弥と光も久しぶり!元気だった?」

「元気やで!相変わらず恵美は元気やねんな」

「そうだね 綾斗といる時の恵美は女の子になるからのー」

翔弥と光さんは恵美さんという人と話していた。
恵美さんの視線は2人から私に向けられた。

「あれ?初めて見る顔ね あなたは?」

恵美さんという方は険しい顔で私を見つめた。

「星川 愛栞といいます 翔弥と綾斗に危ないところを助けていただきました 」

私は素直に話した。すると、恵美さんの顔は険しい顔から明るいあの可愛らしい笑顔に変わった。

「そうだったの! 大変だったね 私、村瀬 恵美(むらせ めぐみ) 宜しくね 」

「はい よろしくお願いします」

「私、堅苦しいの苦手なの だから、普通に敬語とか無しで話してね 名前も呼び捨てでいいから」

そう、自己紹介を終わらせて仲良く握手しながら話していると、後ろから綾斗が恵美に話しかけた。

「そういや、恵美 聞けよ あの翔弥が自分の後ろに愛栞を乗っけたんだぜ」

綾斗が翔弥が私を後ろに乗せたことを恵美さんに話した。すると、恵美の顔は驚いた表情になった。

「はぁ!? あの翔弥が!?だって、今まで何があっても後ろに女の子乗せなかったじゃん どういう風の吹き回しよ」

翔弥さんはホントにどんな理由があっても女の子を後ろに乗せないのだと感じた。

綾斗からも恵美からと驚かれた翔弥は平然とした顔で答えた。

「ん?綾斗の後ろは恵美の特等席やろー だから俺の後ろなのだよ」

「翔弥お前さっきから口調おかしいんだけどよ 内容よりその口調が可笑しすぎて頭入ってこねぇよ」

綾斗がそう言いながら翔弥の方に手を置いているのを私は見ていた。
すると、私の肩を誰かが叩くのを感じた。

「お2人さんよ この子はどうする気なんだい? 怪我してるんやろ?」

肩を叩いたのはさっき知り合った光さんだった。

「やべぇ、わりぃー 忘れてたぜ 恵美、救急箱頼む」

「えっ!?そうなの!?ちょっと早く言ってよ2人とも!大丈夫!?すぐとってくるね!!!」

綾斗は、恵美に頼んで救急箱を持ってきてもらった。恵美、綾斗に言われた通りすぐに救急箱を持ってきて私の手を手当てしてくれた。

「よし!これで大丈夫だよ愛栞」

「うん ありがとう 恵美」

恵美は優しく微笑んだ。そしてバイクのカギを持って翔弥がやってきた。

「よし 手当ても済んだから親も心配してるだろうし家まで送るわ」

バイクのカギを指でくるくる回しながら翔弥はそういった。

でも、家に帰ったからって私以外誰もいない。一人暮らしだから当然ではあるのだが本当に私意外家族はいない___.....帰る家なんて私にはない。
でも、そんなことを今日あったばかりの”朔夜”のみんなに言っても仕方ない。私は翔弥に対して完璧な作り笑顔を向けていった。

「大丈夫だよ 暗いけど歩いて帰るから ありがとう それじゃあ、迷惑かけてごめんね "バイバイ"」

私は、倉庫を出ようと早歩きをした。しかし、翔弥は私の腕を強く掴みそのまま倉庫の奥へ連れて行った。
そんな翔弥は綾斗に向かってありえないこと口にした。


























































「綾斗、こいつ今日からここに住むから」



綾斗は当たり前だが目を点にした。

はぁ!?こいつ何考えてんの?今日会ったばかりの女を普通族の倉庫にいさせるか!?

「おい、翔弥 本気か?」

「おう 本気やで」

綾斗の質問に対して翔弥は笑顔ではたから見たら本気には感じない。しかし、今でも私の腕を掴んでいる手からはその言葉とは裏腹に逃がさないとでもいうような力だった。振りほどくことなんてできないくらいの力で捕まれていた。

「でも、住まわせるって言ったって愛栞の家のこともあるんじゃない?まぁ 翔弥が愛栞を心配してる気持ちはわかるけど」

恵美の言葉にうちは驚いた。,,,,心配?こいつが?
そんなわけがない。会ったばかりなのに。

「でも、今日はもう暗いしさすがに女の子1人で帰らせるのはあたしも不安だし、今日は泊まっていこう?」

恵美は笑顔で私に言った。確かに、恵美が言ったように外はもう真っ暗だった。一人ぼっちの家に帰っても何もすることない。私はみんなに言われるがまま泊まることにした。

「分かった 今日泊まっていくね 翔弥も心配してくれたんだよね?ありがとう」

私は素直に翔弥にお礼を言った。でも、心配をしていても”住まわせる”という意味が私には理解できなかった。

すると翔弥は優しい笑顔をうちに向けた後私にしか聞こえないように耳元で囁いた。

「帰る家がないならここにいればいい 俺が愛栞の”居場所”を作ってやるよ」

その言葉はまるでうちの思ってたことを知っていたかのような言葉だった。...何で気づいたの?何で分かったの?

そんな私の気持ちを無視して翔弥は私の頭を撫でて綾斗たちがいる場所へと歩いていった。


「なんなのよ...」

撫でられた頭に手を置いて私はそう呟いた。


翔弥のあの言葉は心の闇を照らす小さな"月の光"のように感じた。


私ははっきり言って人が嫌いだ。人は簡単に手のひらを返して裏切っていく。最初は優しく「ずっとそばにいるし仲良くする」とかいうがそんなの嘘に決まっている。でも、そんな人嫌いなうちでも心を許した相手は数少ないが何人かいる。何人かとは言ったが数でいうとたった3人、大雅に悠馬、淳也さんだ。

この私が唯一信じられる人たちだ。


これから先、信じられる人たちが増えていくなんてこの時の私は想像もしていなかった。


気づいたら私は寝ていたらしく、完全に開かない瞼から薄っすら見える天井は翔弥が案内してくれた部屋の天井だった。私はここで眠いってしまっていたのだと確信した。気づいたころには窓から光が差し込んでいた。

「もう、朝なんだ」

重い瞼を頑張って開き、体を起こす。すると...____
"トントン"
扉をたたく音がした後、扉の向こうから声がした。

「おはようさん よう眠れたかね」

声の主は翔弥だった。翔弥の声を聴いた瞬間、私は昨日ことを思い出した。

"帰る家がないならここにいればいい 俺が愛栞の”居場所”を作ってやるよ"

翔弥はなぜあの時、私が心の中で思っていたことが分かったのだろうか。しかし、昨日初めて会った女に簡単にこんな言葉を言うなんてありえないと思った。人間なんて言葉に責任を持たない。それに、相手を道具のようにしか思っていないのだから。利用価値がなくなれば手のひら返しをして人のことを笑うのだろう。そんなの分かり切っている。

ー...きっとこの言葉も同じだろう

「愛栞、入ってもよいかい?」

返事をしないからなのかもう一度翔弥は私に声をかけた。

「うん いいよ」

私がそう返事をし、答えを聞いて翔弥は部屋の扉を開け、部屋に入ってきた。私はこの男とこれから生活していくのだとふと思った。


そして、私はこれからこの私の心を照らし続けてくれる"月"に溺れるなんて想像もしていなかった。
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