社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「───真樹。ねえ、真樹ってば」
いくつもの飲み屋が立ち並ぶ、騒がしい夜の街。
おぼつかない足取りで真樹に手を引かれながら歩いていた私が、足の動きを止めて真樹を呼ぶ。すると、彼はゆっくりこちらを振り返った。
「河合さんさ、お酒弱いくせにそうやって変な意地張って飲むの、良くないよ」
振り返った彼は、眉間にしわを寄せ、少し怒っているような表情に見える。
「……ごめん」
珍しい表情を浮かべている真樹の声は、いつもよりトーンが低い。
いつもとは違う真樹に驚き、迷惑をかけてしまったという後ろめたさから、反抗することもできなかった私が素直に謝る。すると、彼は再び口を開いた。
「あと、もう少し警戒心持った方がいいんじゃない?」
「え?」
「さっきの清水のアプローチを二つ返事で断らないのもそうだし、額、こうやって触られてたでしょ」
私へと伸びてきた真樹の右手が、私の額に触れる。
真樹の突然の行動に驚き、彼が何の話をしているのかを理解するまでにコンマ数秒時間がかかった。
「あ、あれは……」
あの瞬間を真樹は見ていたのか。
誰にも見られていないと思い込んでいた私は、言葉に詰まり、ただ真樹を真っ直ぐ見た。
少し怒っているような、呆れているような真樹の表情と、いつもより少しだけ強い口調。あれ、まさか、これ、乙女ゲーと似たような展開じゃない?
「真樹……まさか、嫉妬?」
「ばか、そんなわけないでしょ。掟の二条違反になりかねないから、気をつけてって言ってんの」