鬼社長の魅惑のボイス。

社長……。

社長は、自分から本名を名乗り
理由を話していた。

どうして、このような形を取ったのか
分からない。でも社長は、
堂々としていた。

『どうして今さらながら正体を明かしたからと
言いますと、どうしても
これを観て欲しい人が居るからです。
俺は、一人前になるまで父に隠し通すつもりでした。
会社にも言わずに。しかし
ある女性に出会った。俺……カイの大ファンで
それっぽい声を出すと耳まで真っ赤にするほどの
可愛らしい女性です。俺の秘書なんですが』

『彼女とは、本気で付き合いたいと思って
アプローチをしてきました。でも
それが父親にバレてしまい反対されました。
いつの間にか声優をやっていたこともバレていて
声優を辞めろとも言われました。潰すと』

悲しそうな表情で
自分の内情を打ち明ける社長。

社長……。
私のことをそんな風に考えてくれていたなんて
涙が出るほど嬉しかった。

『ですが俺は、どちらも諦めたくない。
俺は、世界中の人に俺の声を届けたい。
子供の頃に思った……皆を幸せにするような作品に
声優として関わりたい。
それに、彼女のように純粋に俺の声を素敵だと
言ってくれるような女性が必要なんです!』

『だから……お願いします。
俺に彼女と声優の仕事を守らせて下さい!!』
深々と頭を下げる社長。

それは、今まで見たこともない光景だった。

鬼社長でもカイでもない。
本当の社長の姿なのかも知れない。

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