コバルトブルーの誘惑
ホテルに向かうタクシーの中で、

「明日の朝ご飯はタクシーでさっきの話に出たパン屋に行こう。」と嶺緒は楽しげに私の瞳に笑いかける。

「明日は嶺緒の行きたいと所を観光して17時に鴨川沿ね。考えといて。」と言うと、

「部屋で一緒に考えてよ。」と掴んだ私の手をゆっくり撫でている。

「…いいけど、一緒のベッドには入らない。」と言うと、

「5年前は3週間かかったけど、今度はどれくらいかかるかな?」と私の瞳を見つめる。

「…予定はないけど」

「結構、冷たいんだな。」と顔をしかめて私の手をきゅうっと握ってから前を向いた。


…今回はこれだけ言っておけば大丈夫。

前も無理に襲っては来なかったから…

私が彼の気持ちに応える気になるまで、延々と口説いていたような気がするけど…


5年前、私が日本に戻る前日、
『このままで、離れたくない。今、舞の心も身体も欲しい。』
とホテルの鍵を出した嶺緒に、首を縦に振ったのは私だ。

私もあの時嶺緒の全部が欲しかった。

あの時、ふたりは恋人だったのだろうか?

ひと夏の恋。

都合よく遊ばれただけだと、日本に帰ってから、友達に言われたけど、

私は嶺緒が本当に好きだったよ。

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