二人だけの秘密


『5月4日《土》午後1時37分』




僕が風俗店に着いたのとほぼ同時刻、美希さんは母親が入院している京都の総合病院にいた。

「お母さん……」

病室の中、私の沈んだ声が聞こえた。私は点滴に繋がれてベッドで眠っている、母親に声をかけた。

「美希………」

うっすらと細い目を開け、とても弱々しい声が返って来る。

「うん」

私はうっすらと目に涙を溜め、母親の手を優しく握った。

まだ年齢は45歳ぐらいだろうけど、病気のせいか、それ以上の年齢に見える。

「美希………ごめんね。辛い……思いさせて………」

美希さんの母親は、一秒一秒弱くなっていく。

「そんなことはない」

私はぶるぶると首を振って、否定した。

「私、辛くないよ。お兄ちゃんの学費も後少しだし、お金のことは気にしないで。だからもう、誰も死なないで」

顔をグチャグチャにして泣く、私。

「美希……本当ごめんね………」

その言葉が、母親の最後だった。
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