僕が小説を書くように
「先生、お住まいはどちらですか?!」

「あ……新宿区の××ってところの、駅の近くのマンションなんだけど……」

「わかりました、十五分くらいでうかがいます!」

「えっ……もしもし、もしもし……」

 電話が切れた。

 痛みを忘れるくらい、あっけにとられていた。

 自分の深層心理で望んでいた展開なのに、当惑のほうが先に立つ。

「だって俺、歯も磨いてないし、シャワーだって……」

 からだは相変わらず、腰が曲がったまんま。

「服……はいいにしても、部屋が……」

 おろおろと、部屋中を見まわす。

「あーっ!」
 風俗の評論文を書くためのエロビデオが、デッキに差しっぱなしだった。

 もうほとんど這いずり回るようにして、テレビに近づき、隠蔽する。

「あーっ!」
 エロDVDがコレクションしてある棚が全開だった。

 必死でそこらへんにあった覆いをかける。

「あーっ!」
 使用済みのティッシュが、ベッドの近くに投げっぱなしだった。

 誤解を招くといけないので、すみやかに捨てる。

 ピンポーン!
 ぴったり十五分後にインターホンが鳴ったときには、汗まみれになっていた。
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