ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
そう、わかっているのに昨日は部長にも綾瀬さんにも、話しかけることができなかった。

また部長といっしょに昼休みを共にしたい。

気にかけてくれた綾瀬さんにお礼を言って、できれば相談にのってほしい。話を聞いてほしい。

その想いはあるのに、勇気が出ない。同じオフィスに先輩たちの姿が目に入ると余計に。

結局昨日は臆病な自分に勝てなかった。

だから今日こそは勇気を出したい。もう逃げてばかりの自分は嫌だから。……謙信くんも私にそう言いたかったんだって信じてもいいよね?

昔から私のことを知っているからこそ、突き放してくれたんだって。……嫌われたわけじゃないって。

不安に襲われながら電車に揺られていった。



「桐ケ谷さん、報告書のコピーお願いしてもいい?」

「わかりました」

会社に着くと、いつものように仕事をこなしていく。

先輩に頼まれた報告書を受け取りコピー機で三十部ずつコピーしている間、見てしまうのは部長と綾瀬さんの姿。
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