ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「楽しめた?」

パソコンを閉じ、テーブルに散らばった書類をまとめながら聞いてきた謙信くんに、いつものように沙穂さんとの楽しかった時間を話してしまいそうになり、慌てて口を紡ぐ。

「うん、楽しかったよ。……えっと明日は謙信くん、休み?」

「あ、あぁ」

いつもと違う私に彼は面食らった様子。けれどすぐにハッとし私を見据えた。

「そうだ、すみれ。急で悪いんだけど明日、いっしょに実家へ行ってくれないか?」

「え……実家って謙信くんの、だよね?」


うちは今修繕工事中だし、おじいちゃんには謙信くんとの生活に腰を据えろと言って、連絡してくるなって言われているし。

「ふたりが一度、ちゃんとすみれと会って挨拶したいってうるさくて」

謙信くんはうんざり顔で言うけれど、私は一気に不安に襲われる。

謙信くんのご両親、とくにおばさまとは幼い頃から何度も顔を合わせている。

おじさんとも会ったことがあるけれど、それはあくまで幼なじみのご両親とだ。

でも今は違う。仮にも私と謙信くんは婚約しているわけだし。
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