ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「おじいちゃん」

開口一番におじいちゃんの名前を呼ぶと、ベッドに横たわっていたおじいちゃんは、目を丸くさせた後、顔を綻ばせた。

「久しぶりだな、すみれ」

私を呼ぶ声も笑顔も、以前となんら変わりない。私の大好きなおじいちゃんだ。

ベッド脇まで移動し、おじいちゃんの目線に合わせるように膝をつく。

間近でおじいちゃんの顔を見て、やっと安心できた。

「おじいちゃん、よかったっ……!」

本当によかった、無事で。またこうして会って話せて本当によかった。

声にならずただ嬉しい思いが涙に変わり溢れ出す。

そんな私におじいちゃんは弱々しい声で言った。

「なにを泣いておる。……お前の幸せな姿を見ずに死ねるわけがないだろう」

「おじいちゃん……」


私を見つめるおじいちゃんは、困った顔を見せた。

「聞いたぞ? 謙信に婚約はなかったことにしてほしい。結婚できないと言ったそうじゃな?」

「どうしてそれを……」

そこまで言い掛けて、一弥くんの顔が浮かぶ。

一弥くん本人か、一弥くんが叔父さんたちに話したのかも。
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