ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「それはよかった。じゃあ早く起きてどこかで朝食を済ませて買い物に行こう」

「買い物?」

「あぁ。いろいろと買い揃えないとだろ?」

たしかにこの家には、足りないものがたくさんある。


昨夜は引っ越しの荷ほどきで疲れてしまい、外食してしまったけれど、食器や調理器具などないからって理由もあった。

「わかったよ。……わかったから謙信くん、少し離れてもらってもいいかな?」

さっきから少しずつ距離を縮められ、私も下がっていたけれど、壁側に追いやられこれ以上、下がることができない。

おかげですぐ目の前に謙信くんがいて、朝からドギマギしてしまう。

「どうして? 別にいいだろ?」

「わっ!?」

両手を広げ、軽く抱き寄せられ色気のない声を上げてしまった。

「昔はすみれが学校で嫌なことがあるたびに、こうやっていたよな」

「そ、そうだけど……」

身体は硬直してしまい、身動きが取れない。でも、感じる彼の胸の鼓動に安心感を覚える。
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