君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

「………地獄絵図だな、これは」

(これじゃ、話なんて到底無理だ。 無駄足だったな)

そう思い、 和泉は先ほど降りたバス停へ移動しようとしたが。

「………皆さん」

ワゴン車の前にいた李人の後ろ姿が………見物人を向いた。

「李人! 早く乗れ!」

マネージャーなのか、細身の男性が後部座席から怒鳴り叫んだが李人は首を横に振った。

「少し待って下さい、斉木さん。 ………皆さん、今日はわざわざ来て下さりありがとうございます。こんなに地元の方に応援して貰えとても嬉しいです」

そう言って、李人は穏やかな笑みを浮かべた。 そしてまた黄色い声が上がる。

(………何がしたい?このままじゃ場が収まらない)

和泉はそう思い、首を傾げた。一方の李人は、話を続ける。

「………しかし、本日の撮影ですが本来は非公開でした。が、ネット上でこの場所が広まりました。結果、撮影が本来の予定を超え、この後、お宮参りをする筈であった3組のご家族のご予約を神社の方は延期せざるを得なかったそうです」

その李人の話を聞いた途端、今まで興奮していた見物人が………シンと静まった。



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