君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
「図々しいお願いとは分かっています。 ですが、どうかお願い致します」
そう言って、李人は頭を深々と下げた。
その滅多に見られない李人の姿、そして思いを聞いた見物人は、まるで魂でも抜けたかのように李人のみを見つめる。
そして、暫くして聞こえてきたのは
「いいぞ、 橘 李人!」
「李人君! 私達が悪かったわ! ごめんなさい!」
「李人君っ!素敵ーーーっ! ファンイベント絶対行くよーーーっ!」
大きな拍手と共に、次々に李人を誉め称える言葉だった。
「皆さん………、ありがとうございます」
そう言って、李人も笑顔で見物人達にお礼を言う。
その光景を和泉は驚きと共に見つめていた。
(まさか、拍手喝采で幕を閉じるとは………)
確かに、先ほどの李人の発言の数々は隙がなく、誰も反論できなかった。
しかし決してそこに嫌味はなく、ここにいる見物人の気持ちにも寄り添った………極めて真摯なもので、それは本来の李人の性格の一部であるのだろう。
そして、それと同時に和泉は優葉の事も思っていた。
(あの女も……….、 橘 李人のこんな性格を良いと思ったりするのか?)