ミントブルーの純情


みつの手が横からのびてきて、ヒョイっと私のスマホを奪う。私はそれに「あ」って小さな声を出す。



「なになに? ……久しぶり、元気にしてる?……あおは元気だろうけど俺は……」

「ちょっと! 読み上げないでよー!」

「俺は、の続き読めないんだけど。ロック解除して」

「読まなくていいし!」


みつが私に背を向けるから、スマホを奪い返そうとみつの背中にくっつく。

まだお風呂に入っていないみつは、部活のあとで汗をかいたはずなのになぜだかいい匂いがする。同じシャンプーとボディソープを使ってるなんてウソなんじゃないかって思うくらい。



「パスワード何? 誕生日?」

「ちょっと、むやみに数字打ち込まないで! ねえほら、一時間くらい使えなくなったらどうしてくれるの!」

「誕生日じゃない、身長でもない、これも違う……あとは、」

「あ、」



みつが器用に私の邪魔を遮って数字を打ち込む。

早くてよく見えなかったけれど、スマホのロック画面がホーム画面に一瞬で切り替わったから、みつが私のパスワードを当ててしまったんだってすぐにわかった。



「いや、これは違うよ、みつ。変えるのが面倒くさくて、そのままにしてあっただけだから……」

「……ふうん。あおって、意外と伊藤のこと好きだったんだ」



低くなったみつの声。

変えるのが面倒くさくて、伊藤くんと付き合っていた時から使っている『記念日』のパスワード。まさかみつにバレるなんて思ってもみなかった。



「いや、本当に違うよ? 変えるのが単にめんどくさかっただけだし、このパスワードが記念日だなんて今の今まで忘れてたっていうか……」

「あお」

「え、はい……何」

「俺のパスコード、解いてみて」



私は何を必死にこんなに弁解してるんだろうと思いながら、みつが背を向けたままこっちへ放り投げたスマホを受け取る。

みつのパスコードなんて知らない。



「何それ……全然わかんないし、」


振り向かないみつの後ろで、私はテキトウに数字を並べる。みつの誕生日、身長、ケータイ番号の下四桁、みつのすきな「1」の羅列。どれもハズレで、打ち込むたびにブーってスマホが揺れる。


「もう、こんなのわかんないよ……いきなり意味わかんな……あ」


< 11 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop