ミントブルーの純情
みつの手が横からのびてきて、ヒョイっと私のスマホを奪う。私はそれに「あ」って小さな声を出す。
「なになに? ……久しぶり、元気にしてる?……あおは元気だろうけど俺は……」
「ちょっと! 読み上げないでよー!」
「俺は、の続き読めないんだけど。ロック解除して」
「読まなくていいし!」
みつが私に背を向けるから、スマホを奪い返そうとみつの背中にくっつく。
まだお風呂に入っていないみつは、部活のあとで汗をかいたはずなのになぜだかいい匂いがする。同じシャンプーとボディソープを使ってるなんてウソなんじゃないかって思うくらい。
「パスワード何? 誕生日?」
「ちょっと、むやみに数字打ち込まないで! ねえほら、一時間くらい使えなくなったらどうしてくれるの!」
「誕生日じゃない、身長でもない、これも違う……あとは、」
「あ、」
みつが器用に私の邪魔を遮って数字を打ち込む。
早くてよく見えなかったけれど、スマホのロック画面がホーム画面に一瞬で切り替わったから、みつが私のパスワードを当ててしまったんだってすぐにわかった。
「いや、これは違うよ、みつ。変えるのが面倒くさくて、そのままにしてあっただけだから……」
「……ふうん。あおって、意外と伊藤のこと好きだったんだ」
低くなったみつの声。
変えるのが面倒くさくて、伊藤くんと付き合っていた時から使っている『記念日』のパスワード。まさかみつにバレるなんて思ってもみなかった。
「いや、本当に違うよ? 変えるのが単にめんどくさかっただけだし、このパスワードが記念日だなんて今の今まで忘れてたっていうか……」
「あお」
「え、はい……何」
「俺のパスコード、解いてみて」
私は何を必死にこんなに弁解してるんだろうと思いながら、みつが背を向けたままこっちへ放り投げたスマホを受け取る。
みつのパスコードなんて知らない。
「何それ……全然わかんないし、」
振り向かないみつの後ろで、私はテキトウに数字を並べる。みつの誕生日、身長、ケータイ番号の下四桁、みつのすきな「1」の羅列。どれもハズレで、打ち込むたびにブーってスマホが揺れる。
「もう、こんなのわかんないよ……いきなり意味わかんな……あ」