私と恋をはじめませんか
「有村さんのおかげで、少し緊張がほどけてきた気がします」

「え? 緊張してたの?」

「はい、今日から業務開始なんです」

「そっか、研修期間終わったのか」

有村さんの言葉に、コクリとうなずく。

「小春ちゃんはどこに配属決まったの?」

「お客様相談室です」

研修の最後に、自分たちの配属先が告げられた。

私が配属されたのは、お客様相談室。

お客様からの色々な意見や要望を取りまとめて、会社や商品をもっといいものにしていく活動をしていくところだ、と辞令を受けたときに説明された。

「お客様からの電話やメールが直接届くところだから、いい勉強になるんじゃない?」

「はい、私もそう思ってるんですけど……」

「だからこそ、不安かあ」

有村さんの言葉に、小さくうなずく。

確かに、お客様からの声を直接聞けるというのはとてもいいことだ。

それを会社や商品に反映していくという、大事な仕事を担うってこともすごいことだと思ってる。

だけど、お客様の声は様々だから。

いい意見もあれば、悪い意見も聞かなくちゃいけない。

そのとき、私にちゃんと対応できるだろうか。

辞令を受けたときに、最初にそのことを不安に思った。

「俺も営業部で、外に出て意見が聞ける立場だからね。小春ちゃんと同じように不安にもなったよ。今でも不安になることもあるし、失敗だってある」

「本当ですか?」

「でも、そうやって成長していくものだしね。とりあえずやってみるしかないからさ。ま、困ったときはいつでも俺のこと、頼ってよ」

「はい、ありがとうございます」

身近に素敵な先輩がいるのは心強い。

有村さんのおかげで、心の中で膨らんでいた不安が少しだけ消えてきた気がする。

「とりあえず、連絡取れるように番号交換しておこうか?」

「はい、お願いします」

赤外線通信でお互いの連絡先を交換したあと、有村さんが微笑んだ。

「あと、小春ちゃんとこに俺の同期もいることだし、よろしく言っとくよ」

「え? 同期の方がお客様相談室に?」
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