私と恋をはじめませんか

新入社員の愉快な同期たち

カラオケボックスでしっかり泣いて、ついでに何曲か歌ったりもしたおかげで、翌日はしっかり目は腫れていたけど心は少しだけ落ち着いていた。

元々、どちらかというとポジティブ思考は強めの私。

落ち込むことはあっても、結構立ち直りは強いほうだと思っている。

今回も、篠田さんに恋愛対象と見られていないことがわかって、すごくショックだったけど。

だけど、今は見られていなくても、今後見てもらえる可能性はあるよね?

篠田さんが私を好きになる確率が、ゼロパーセントというわけでないもんね。

少なくとも、現在篠田さんには彼女はいない。それがわかっただけでも収穫はあった。

そんな風に言い聞かせて出勤して五日が過ぎ、今日はあの事件からちょうど一週間の金曜日。

「芽衣さぁ~ん。さすがのポジティブ小春もヘコみそうです……」

昼休み、食堂の机に突っ伏す私の頭を、芽衣さんがよしよしと撫でてくれる。

先週の金曜日の一件から、芽衣さんは私のお姉さんのような存在になっていた。

『崎坂さんのこと、名前で呼んでもいいですか』と勇気を出して聞いてみたら快諾してくれたので、甘えついでにしっかり名前も呼ばせてもらっている。

「……篠田さん、私を避けてるの、バレバレなんですよ。あからさまなんですよ。だって今日なんか、律子さんに聞かれましたからね、『篠ちゃんと何かあった?』って。変に避けるほうが怪しまれるってわかってないんですかね、あの人っ!」

「有村は余計なこと言ったからだろうけど、でもそんなに意識することかなぁ」

「ですよね? 別に有村さん、勝手に私のことオススメしたようなもので、好意があるようなことは言ってなかったですよね?」

そう。金曜日の食事の件から、なぜか篠田さんは私のことを避けるようになったのだ。

今までもそんなに仲が良かったわけではないけれど、私が話しかけたら多少の会話はしてくれていたのに、今週になったらなぜか、すぐに会話を終わらせるような相槌を打ったり、席を外す行動をしたりするようになってしまった。

気にしない、気にしない。そう言い聞かせて仕事をしてきたけど、さすがに一週間あからさまに避けられると、私もあまりいい気分ではない。

「やっぱり有村に頭下げさそうかな。いや、それだけじゃダメよね。土下座させようかしら」

「それはやめてください。有村さんは私のことを思って行動したんですから」

金曜日の有村さんの行動は、芽衣さんにとって「有り得ない」こととして認定されている。

月曜日に有村さん本人からも謝罪の言葉をもらっていて、私は「気にしないでください」と言ったんだけど、芽衣さんの怒りはおさまっていなくて。
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