クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
彼の背中が、だんだんと遠ざかっていき、向こうの端のエレベーターに消えた。

知らず、唇を噛んでいた。

──手を、握ってくれたくせに。

全力で走ったら、エレベーターのドアが閉まる直前に追いついた。

携帯に目を落としている彼の腕を掴む寸前で、ドアが私の腕を挟み、ガコンと大げさな音を立ててまた開く。

物音に顔を上げた有馬さんが、挟まれたのが私であることに気づき、ぎょっと目を見開いた。私は半身をエレベーター内に入れ、彼のTシャツの袖を掴んだ。


「降りてください」

「なに、ちょっと…」

「いいから降りて!」

「いや、そっちこそ、乗るなら乗って…」

「私は律己くんの担任です。これじゃ理由になりませんか!?」


有馬さんは抵抗しつつ開ボタンに手をやって、ぽかんと私を見ている。


「…律己を迎えに行かないといけないんで」

「7時でしょう? まだ時間があります」


予想通り、彼は顔をしかめ、「はあ?」と苛立った声をあげた。


「なんなんですか、いつもは少しでも早く迎えに来いって言うくせに。エプロン脱いだら陣営も変わんのかよ!」

「今の問題はそこじゃないでしょう、わかってるくせに余計なこと持ち出してごちゃごちゃ文句つけないで!」

「ごちゃごちゃ言ってんのはそっちだろ! 律己はなにも気にしてない。俺との関係は説明した通りで、姉は死んでます。ほかになにがあるんだよ?」

「どうしていきなりそんな態度なの!?」


そのとき、彼の押していたボタンの効力が切れたのか、たまりかねたようにドアが閉まり始め、ちょうどレールの上にいた私に左右から迫ってきた。


「あっ…」


まずい、これ、けっこう痛そう。

逃げる暇がなくて、その場で身を縮めた。

そこに有馬さんがぶつかってきた。
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