クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「律己くん、プールが大の苦手なんです」
「え、ほんとに? でも新しい水着とか、買ってやったら喜んでましたよ」
「それは、少しだけ背伸びしたんだと思います。おばあちゃんはご存じですが、水をかけただけでマンションの裏のほうまで走って逃げちゃったりして」
有馬さんの口があんぐり開いた。「マジかよ」とつぶやく視線の先では、律己くんがやけにきびきびとリュックをロッカーにしまい、着替える準備をしている。
「毎年慣れるまで大変で、やっと慣れた頃にはもう、プールはあと数回って時期になってるんです」
「まずくないですか、それ。今年五歳でしょ? スイミングスクールとか行かせたほうがいいのかな…」
こちらからするとほほえましく、成長するにつれ慣れるだろうと思えることも、お父さんからしたらやっぱり気になるらしい。真剣な顔で眉根を寄せ、「でも誰が送り迎えするんだ」と悩んでいる。
「大丈夫ですよ、そういう子、クラスに必ずひとりはいますが、みんな卒園までには、楽しく入れるようになってます」
「隠すってことは、本人もこのままじゃいけないって思ってるんですね」
「はい。だから見守ってあげててください」
頬杖をついて、息子を見つめる表情は、穏やかだ。
窓からは朝の光がたっぷりと差し込み、冷房を無効化してやろうと意気込んででもいるみたいに、室内に夏の日差しを届けてくる。
ほんの数分、顔を合わせて、律己くんという共通の存在に思いを馳せ、それについて情報交換する、私たちのひととき。
「じゃあ、行きます。よろしくお願いします」
「はい、行ってらっしゃい」
くたびれたスニーカーに足を入れながら、彼が「行ってきます」とはにかんだ笑顔を見せた。
ガラスドアを開けて外へ出た瞬間、あまりの日差しの強さに驚いたのか、ちょっと首をすくめてから、駅のほうへ歩き出す。
彼が見せた、律己くんへの複雑な愛情と、そこから来る葛藤は、あれ以来、私に見えるところには出てきていなくて、それがまた痛ましくもある。
彼らは誰が見たって、日に日に親子らしくなってきている。
有馬さんも当然、それを感じているだろう。近づきすぎたら、いつか自分が律己くんを傷つけてしまうと、心の底で怯えながら。
たかが子供ひとりのことで、と知らない人は言うだろう。
「え、ほんとに? でも新しい水着とか、買ってやったら喜んでましたよ」
「それは、少しだけ背伸びしたんだと思います。おばあちゃんはご存じですが、水をかけただけでマンションの裏のほうまで走って逃げちゃったりして」
有馬さんの口があんぐり開いた。「マジかよ」とつぶやく視線の先では、律己くんがやけにきびきびとリュックをロッカーにしまい、着替える準備をしている。
「毎年慣れるまで大変で、やっと慣れた頃にはもう、プールはあと数回って時期になってるんです」
「まずくないですか、それ。今年五歳でしょ? スイミングスクールとか行かせたほうがいいのかな…」
こちらからするとほほえましく、成長するにつれ慣れるだろうと思えることも、お父さんからしたらやっぱり気になるらしい。真剣な顔で眉根を寄せ、「でも誰が送り迎えするんだ」と悩んでいる。
「大丈夫ですよ、そういう子、クラスに必ずひとりはいますが、みんな卒園までには、楽しく入れるようになってます」
「隠すってことは、本人もこのままじゃいけないって思ってるんですね」
「はい。だから見守ってあげててください」
頬杖をついて、息子を見つめる表情は、穏やかだ。
窓からは朝の光がたっぷりと差し込み、冷房を無効化してやろうと意気込んででもいるみたいに、室内に夏の日差しを届けてくる。
ほんの数分、顔を合わせて、律己くんという共通の存在に思いを馳せ、それについて情報交換する、私たちのひととき。
「じゃあ、行きます。よろしくお願いします」
「はい、行ってらっしゃい」
くたびれたスニーカーに足を入れながら、彼が「行ってきます」とはにかんだ笑顔を見せた。
ガラスドアを開けて外へ出た瞬間、あまりの日差しの強さに驚いたのか、ちょっと首をすくめてから、駅のほうへ歩き出す。
彼が見せた、律己くんへの複雑な愛情と、そこから来る葛藤は、あれ以来、私に見えるところには出てきていなくて、それがまた痛ましくもある。
彼らは誰が見たって、日に日に親子らしくなってきている。
有馬さんも当然、それを感じているだろう。近づきすぎたら、いつか自分が律己くんを傷つけてしまうと、心の底で怯えながら。
たかが子供ひとりのことで、と知らない人は言うだろう。